きみに触れるすべてがいつでも優しくありますように






そっと伸ばした指が彼の髪に触れる。藍色で少し癖のある髪。僕が好きな、もの。

「どうしたんですか?」
「何でもないよ?」

小さく首を傾げこちらに理由を問う。しかし理由なんて特に用意して無かった。だからそのまま答えたのだが、雪村はそれでは納得出来ないみたいだった。

「先輩はいつもそればっかりだ」

ムスリとしながらそっぽを向いてしまうが触れた手は払われない。それをいいことに僕はゆっくりと顔を近付け、その柔らかい頬にかじりついた。

「は、何…っ!?」
「ちょっと大人しくしててね」

かじりついた、といっても少し歯を立てたレベル。歯形も付かなければ恐らく大した痛みも無いだろう。でも彼を驚かすには十分すぎたみたいで状況が読めない、と綺麗な目を丸くしているのだ。あぁ可愛い、そう思ってしまうのは贔屓目だろうか。
そっと顔を離し歯を立てた箇所を指でなぞる。ついさっきの行為など気付かれないくらいに、何事も無かったかのような頬を見て少し安心した。そんなちょっと顔の緩んだ僕を見て、雪村は今だとでも言いたげに声を上げる。

「まったく何ですか一体!?」
「うん?可愛いなぁ、って思って」

無意識なのか何なのか、僕の袖を小さく掴んで意味がわかりません!と声を大にする彼を見ていたら堪らなく愛しくなった。だからぎゅうと抱きしめてキスをした。触れるだけの、ほんの些細なもの。

「雪村って温かいね」
「くっついてるから温かいだけですよ」
「そうかな?」
「そうです!」
「――…じゃあ、そういうことにしようか」

貼り付けたような笑顔は要らない、きっと彼には気付かれてしまうだろうから。隠すなら一切の全てを、晒すなら余すこと無く。でも今はそんなことをいちいち考えていたくない。
触れた部分から伝わる体温があまりにも心地良くて、離したくない。そう思ったこれは僕の我儘。

「吹雪先輩、」
「なぁに?雪村」
「もう、勝手に居なくならないでくださいね」
「うん……わかってるよ」





『ごめんね』

僕は都合の良い人間だ。きっと彼のことを考えている振りをして、実際は自分のことしか考えていない。失いたくないから、傷付けたくないから、いつまでもこの腕の中に閉じ込めておきたい。それこそ真綿で包むように。
でもそれは単なる僕の願望であって、彼自身はそんなこと望まない。もし閉じ込めてしまったなら、彼はいつかするりとこの腕をすり抜け、自由を求め白銀の世界を駆けて行くだろう。

だからせめて、



(君に触れる全てが、いつでも優しくありますように)










title:寡黙(旧:hmr)さま




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