眠る前に迎えに来て






「白竜、痛い」

掴んだ手を離すまいときつく握った。離したら、消えてしまいそうだったから。

「この前お前が変なことを言ったからだ」
「…何か言ったっけ?」
「俺に"自分が消えたらどうする?"と言っただろう」

言われたあの時は特に何も考えていなかった。大体シュウが前置きもなく俺の前から消えるなんてそんなこと、有り得ないと思っていたから。
でも時折ふらりと出掛けて、そのまま帰って来ないのではないかと思う時があるのもまた事実。

「あぁ、そういえば言ったね」
「その話だが、もし逆だったらどうするんだ」
「白竜が消えるってこと?」
「それこそあくまで例え話、ではあるが」

毎日毎日当たり前にやって来て繰り返される日常。そんな日常にある日突然穴が空いたら。すぐさま穴を埋めるために必死に繕うのか、もしくはその穴から綻んで崩れてしまうのか。
剣城が居なくなって突如俺の中に穴が空いてしまった。その空白を一緒に繕ってくれたのは紛れもなくシュウだ。

「気が狂うと思うよ、君の居ない現実に耐えきれなくて」
「大袈裟だな」
「そうかな。でもあながち間違ってもいないと思うけど」

しかし今では繕った穴よりも大きく深く、互いに相手の領域へと侵食している。境界線ですらわからなくなりそうなほど曖昧になって、でもはっきりと突き付けられる見えない何か。
雨の日に海を見て無表情で佇むシュウに「哀しいのか」と聞いたことがある。何故「哀しい」と聞いたのかは自分にもわからなくて、気付いたら口を突いて言葉が先に零れていた。

「哀しいのか」
「さぁ?どうだろう」

「ねぇ白竜、君は幸せかい?」

雨の日もこいつは同じことを言った。「哀しいのか」と聞いた俺に「君は今、幸せかい?」と。
あの時自分は、何と答えたのだったか。でも今は、今は―――

「シュウが居ないと、意味が無いんだからな」
「それは責任重大だ」

口ではそう言っていたが、どこか嬉しそうだった。





お前が消えそうになったら、その手を掴んで何度だって俺が連れ戻してみせるから。



(幸せはひとりじゃ意味が無いんだ)
(だから明日も、ここに居て)







全ての方に感謝の言葉を
ありがとうございました!





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