眠る前に迎えに来て






瞼を閉じて意識を手放してしまったなら、もう明日は来ないんじゃないかと不安になった。だから腕に鋭く爪を立て、朝が来るのをじっと待っていた日もある。長い長い夜を痛みと不安だけ抱いて過ごす、ただ辛い時間。
そもそも明日が欲しいと願うようになってしまったのがいけなかった。明日が欲しいから、眠って今日という日を終えてしまうのが怖い。

「君がいけないんだ」
「何だ突然」

明日なんて当たり前に来る、来なかった時はきっと僕が僕の望む場所に行けた時だ。そう思っていた時期が確かにあった。でもそれはもう過去の話。
隣で雑誌を読む白竜の手を引き寄せ、白い指先に口付けた。

「僕が白竜を好きになったから」
「俺は関係無いだろ」

時間は止まってしまったはずなのに、錆び付いた時計の針は動き出そうとギシギシと音を立てる。生に縋り付く、愚かな亡者だ。誰かと一緒に居ることの幸せを理解して覚えてしまった。だからきっともう戻れない、離れたらきっと苦しくなる。
僕一人が苦しいだけで済むならそれでも構わない。でも、勝手に消えでもしたら彼は少しばかりでも悲しんでくれるだろうか。もしそうならこれはもう僕だけの問題じゃない。

「白竜、」
「なんだ」
「君が明日目を覚まして、僕が消えてしまっていたら…どうする?」

あからさまに面倒そうな顔をして、意味がわからないと言外に訴えて来る。確かに唐突と言えば唐突すぎる話題ではある。

「例えばの話だよ、あくまで仮定だ」
「…事実に直面しなければわからないが、困るだろうな」

"困る"だけなのだろうか。僕の存在は彼の中ではそんなに小さなものなのか。もやもやと何かが引っ掛かる。
しかしそこまで考えて、はたと自分が醜い感情を持ち合わせていたことを思い出してしまう。
("悲しんでくれるだろうか"じゃなくて、本当は"悲しんで欲しい"じゃないのか)

「…困って、おしまい?」
「さぁな、どうだろう」

でも決して僕の為に泣いて欲しいわけじゃない。彼にはいつだって笑って前を向いていて欲しいから。
僕の存在はそうだ、小さな傷でいい。消えなくて忘れた頃にほんの少しだけ痛んで存在を主張する、そんな傷になりたい。

「今日のお前、何か変だな」
「そうかな?」
「明日も早いから寝るぞ」



「おやすみ、シュウ」
「…おやすみ、白竜」

明日が来ないんじゃないかと不安になった。天地も何もわからない暗闇の中にただ一人、自分の手足すら見えないそこで漸く見えたのは一筋の光。それは明日へと続く未来という名の希望。
今もまだ不安に駆られるけれど、そんな時はこの手と繋がっている白竜の手が、僕を現へと引き戻し明日をくれるから。

だから何度でも、最期に眠る前に迎えに来て。







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