二人でワールドエンド
首が痛い、腕が痛い、肋骨が痛い。痛覚が煩く騒ぐ箇所を挙げるとキリが無いほど身体の節々が悲鳴を上げていた。手首には紐で縛られた痕がくっきりと付いている。
だがそんなことはさておき手早く支度を済ませ、早朝から島を出てある場所に向かった。そう、あいつの所へと。
「――朝早くから立派なことだな、剣城」
「…こんな所に来るお前もな」
河川敷にあるサッカーコート、まだ薄暗い朝からそこで自主練習をしているのは知っていた。ボールを高く蹴り上げ自身も跳び、上空から叩き落とすように放たれるシュート。それを無意識にブロックして止める。
着地すると同時にゆっくりとこちらへ近付く剣城が何かに気付いたらしく、とたんに慌てて駆け寄り俺の腕を取った。
「白竜…!」
掴まれた腕がまたミシリと軋み痛む。そこには紫色に鬱血した痕、シャツの袖を捲ればはっきりと見える。首の痕は消えてしまったのだが、それでも切られた頬に傷が残っているはずだ。
「あぁこれか?いいだろう、シュウがやったんだ」
痛みですら、傷痕ですら愛おしい。
兄のことがあるからか、怪我に対して敏感な剣城はどうやら違和感を感じたみたいで俺の腕を掴んでいた手を離し次は肋骨をなぞった。
「お前っ、肋骨も…」
「二、三本折れてる。というか折られた」
自分は関係無いのに悲痛に顔を歪める。どうして、そんな顔をするんだ。
昨夜化身でも出しそうなくらいどす黒い目をしてシュウに踏みつけられた身体は、いとも簡単に聞き慣れた音を奏で骨が折れた。人間の身体はやっぱり脆い。
「俺の身体にあいつが付けた痕が残る」
シュウのことが好きなのに好きだと言えないでいる。だからその代わりにあいつをこの身に刻もうとわざと神経を逆撫で、煽って煽ってこうして怒りに任せ痣や傷を付けてもらう。
だが痛いのは嫌いだし、それにいつ嫌われるだろうかと正直不安でいるのだが、今のところそんな様子は見られない。
「白竜、お前は狂ってる」
「それでも結構、貴様ごときに理解出来るはずもあるまい」
普段は飄々としてこちらのことなど気にも留めないのに、腹を立て俺に傷を付けているその時間だけは、ただずっと俺だけを見て声を言葉を聞いている。この時だけ俺はあいつの世界に存在出来る、あいつを独占出来る。
「理解出来ないし、したくもないな」
まるで憐れむような表情でそう言ったこいつの手は、空を切っていた。
誰にも理解出来なくて構わない、俺だけが知ってあいつを好きでいればいい。折れた肋骨を圧迫させるように握りしめた、痛みだけが俺に与えられた証。
好きだからどうか酷く傷付けて
君という存在をこの身に刻み込んで欲しいんだ
好きだなんて気持ちは伝わらなくていい
でも勝手に想っていることだけは許してくれないか