咲き誇るは黒百合






白竜の操力が乱れている。それを無理矢理押さえ込んだから身体への負担が大きすぎて倒れた、のだと思う。確信じゃないのはまだ彼の姿を確認していないから。
倒れたのだと思わしき場所には既に摂理課が到着していて現場検証を始めている。しかしそこに彼の姿は無い。

「白竜…!」

波立つ感情を必死に落ち着けて彼の操力を辿ることに集中する。そして姿を捉えたと同時に走り出す。
商店街を抜けて住宅街に入り、駅に程近いまだ新しそうなマンション。セキュリティの厳重さをエントランスが物語るが、それはあくまで正ルートから入った場合の話だ。少し裏手に回り、補修作業にでも使っていたであろう足場を借りて目的の部屋のベランダに侵入する。

「…居た」

部屋を覗き、ガラス越しに見えたのは誰のものかわからないベッドで眠りに就く白い彼の姿。顔に付いた細かい傷に胸が痛くなる。
ここまで来たら後はそう、人工物である鍵を操力で動かし解錠して何なく部屋に入り込む。

「白竜は返してもらうよ」

奥のキッチンに見える背中に聞こえるか聞こえないかの声でそう言って、眠る彼を抱き上げ再びベランダから部屋を出た。










白い手を取り指先に口付けを落とす。昼間付けられた顔の傷は僕が傷跡をなぞることによって綺麗に消えた。
ゆっくりと上がる瞼、部屋の中をぐるりと見渡し口を開く。彼の手に頬を寄せ僕が笑えば彼も安心したのか小さく笑って起き上がる。

「…シュウ…」
「なぁに?」
「家、か…?」
「そうだよ」

白竜は、自分一人では自身が持つ膨大な操力をコントロールすることが出来ない。だから一人で行動する時は摂理を使わないようにしているはずなのに使ったということは、必然的にまた彼が襲われていたということになる。
それにしても先ほどのマンションに居た、あいつは誰なのだろう。白竜のことを知っている人間なら倒れた時点で殺しているはずだ。もし助けたということだとしたら、何が目的なのか。

「さっきの奴に何もされてない?」
「誰だ?」
「君、知らない奴の家に連れてかれてたでしょ。だから」
「…あぁ、大丈夫だ」

白竜のことは知らなくとも、その見目形の良さから近付いてくる輩も中には居る。しかし彼も無防備な人間では無いので大した問題にはならないのではあるが、それでも僕は嫌で嫌で仕方ない。誰とも知らない奴が彼に近付き触れる、それを考えるだけで虫酸が走る。
そんな独占欲の塊みたいな僕に彼は不意打ちでキスをする。状況が理解出来なくて目を丸くしていたなら、もう一度キスされた。

「なっ、何?」
「不満そうな顔してたから」

それが当たり前のようにさらりと言われてしまってはもうお手上げだ。反則じゃないか。だから仕返しとばかりに起きて間もない身体をベッドに押し倒した。
同じように識別コードの刺青が入っている腕を押さえつける。状況の理解が追い付いていない彼はまだ大人しいが僕はもうそろそろ我慢出来ない。

「足りない」
「う、ん…?」
「足りない足りない、白竜が足りない」

"失敗作"と施設に居た時は言われていた白竜だが、僕も決して完全な"成功作"ではない。人工物を含め摂理は全て意のままに操ることが出来るが、ただそれだけで操力は一般操力者の平均値並みか下手すればその平均値を下回る時もある。それ故に少し大きな力を使えばすぐに操力が底をつく。
操力が無ければ操力者としての価値は無い、そんな僕に価値を与えてくれたのは白竜だ。だから彼から操力を貰う代わりに僕は彼を生かす。

「おい、っ…シュウ…!」
「君がいけないんだからね」

だがもし、何かがあって白竜が僕無しで生きられるようになったら、どうしよう。白竜が僕を必要としなくなったら、どうしよう。そう思ったらすごく怖くなった。同時に醜い自分に嫌気がさす。
吐き出しそうになった言葉を飲み込んで作った顔は、果たして上手く笑えているだろうか。

「離してなんかあげないから」

掴んだ腕は、白い彼は、僕のものだ。醜い感情を持った黒い僕は、彼のものになりたい。
(願うことぐらい、許されるでしょう?)




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