一度口にしたらもう止められない






以前にもしたことがある。ゆっくりと褐色の喉に歯を立て噛み付いたことが。
(…居た)
別に怪我をさせることが目的では無いからただ歯形を付けただけではあるが、それでも噛み付いたことに何ら変わりはなくて。何故かその感覚を時々思い出してしまって、酷く渇望している自分が居る。もう一度噛み付きたいと、思ってしまう。

シュウが居ないと合同練習にならないから捜して来い、と青銅とカイに押し切られた。森に居るはずだからと言われたが、それならむしろエンシャントダークのメンバーの方が勝手がわかるだろうに。
疑問を頭の片隅に浮かべながら森を歩けば大樹の日陰に目的の人物の姿を発見する。

「シュウ」

風に吹かれて黒髪が揺れる。ユニフォームを着ているということは、少なからず練習する気があったとして評価してやらなくもない。だが時間になっても集まらなければ連絡もしないのは一体如何なものか。
毛先が白く脱色された髪を引っ張った。だが肩を揺すっても起きる気配はしない。
(そんな無防備に晒されたら、噛み付きたくなる)
(だから早く、起きろ)

「シュウ、起きろ」

それなりに苛立ちを覚えながら再び肩を揺するが、まともな返事は返らないし瞼も開かない。声は発するが言葉になっていないしまだ夢の中だとしか思えない。

寝ているのなら、噛み付いたって良いじゃないか。そんなことを考えてしまう自分に呆れる。
噛み付いた所で一体何になるというのだ、何にもならないじゃないか。そんな自問自答をぐるぐると繰り返し、理由を求めて躊躇っている自分と衝動に任せて動こうとする自分が存在することに気付く。
いつだってどこかに行ってしまいそうな気がするから、ここで今、食べてしまえば俺たちはひとつになれる。ひとつになればもう、何も心配しなくていい。
食べると言ってもカニバリズムのような類いではなく、一種の例えだ。"食べる"という行為でどこか満たされた気になる。
(一口、だけなら)
暫く続けた葛藤の結果は、結局欲求に負けて肩に手を置きゆっくりと褐色の喉に歯を立てていた。もちろん美味しくなどない、食欲が満たされるわけでもない。それでもどこか満足している自分が居る。

「…くだらない」

跡は残っていないが先ほどまで歯を立てていた部分をなぞると同時に、閉じていたはずの瞼がゆっくりと持ち上がる。視線が合って焦ったりすることはなかったが、言葉は喉に引っ掛かって何も出なかった。

「――…白竜?練習、は…?」
「お前が来ないから始められん」
「あぁ、そっか…化身…合体、だっけ…」

こちらの都合などお構い無しに暢気に欠伸をひとつしてのんびりと立ち上がる。そんな姿に若干機嫌を悪くしながらも俺は早く練習を始めたくて先を歩く。さっきまでの自分のした行為など無かったかのように、驚くほどいつも通りだった。

「…そうだ白竜、」
「なんだ」

後ろから不意に名前を呼ばれたから、嫌々振り返れば何が嬉しいのかやたら上機嫌にシュウが笑っているのだ。

「お味は如何?」

わざとらしく、自らの首に手をあてながら笑っているのだ。
あぁそうだ。こいつは、確信犯だ。




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