エゴイズムと理想論






目の前で規則的な寝息を立てる彼に安心している自分と、彼の首に手を添えて恐ろしいことを考えている自分が居る。
(あぁ、いけない。このままじゃ、いけない)
自分とは違って彼には生きていて欲しいのだ、もちろん。健康で、強くて、美しいまま、生きていて欲しい。
だけれど頭のどこかで、酷いことばかりを考えていることがある。彼を森の奥に閉じ込めてしまおうとか、そんなことだけならまだまだ優しい。彼の脚を切り落とし逃げられないようにして僕の傍に縛りつけてしまおうとか、綺麗な紅い瞳を潰して僕以外のものなんて見えないようにしてしまおうとか、いつの間にかそういったことを考えてしまっている自分が嫌になる。

「…白竜、」

ほら今だってそうだ。彼の白い首に手を添えているのは、この首を絞めて彼の時間を止めてしまいたから。
(もっと白竜と一緒に居たい。これからもずっと隣に居たい。でも僕の時間はもう動き出さない)
(僕の時間が動かないなら、そうだ彼の時間を止めてしまえばいい)

「ごめんね、ごめんね…」

でも僕は、息をして温かくて笑って怒って泣いて、動いている彼が好きなのに。その紅い瞳で僕を見て、その声で僕の名前を呼んで、その脚で僕と一緒に走ってサッカーをして。
僕はなんて狡いのだろうか。自分からは何もあげられないのに、欲しい欲しいと彼にねだってばかり。彼は意図せず僕の欲しいものをくれるから、その優しさについぞ甘えてしまう。

「僕は…君が、」

(―――…好きなのに)

僕の手が、彼の首を喉を、少しずつでも着実に圧迫していく。規則的だった寝息が乱れて、酸素を欲した身体が激しく揺れて。



ほらほら危ない。このままじゃ、
(彼を殺してしまうよ?)








ガチャンと大きな物音がした。苦しそうに息をする白竜の腕がサイドテーブルの上にあった携帯にぶつかり、床に落下した為だ。
慌てて手を離した僕は、何ともない自分の首に手を当て過呼吸にでもなったかのように荒い呼吸を繰り返す。そうだ彼は、白竜は大丈夫なのだろうか、と自分でやっておきながら心配になり床からベッドに視線を移せば、若干涙目になりながらもゆっくりと起き上がった彼を見て安堵した。

「は、白竜…?」

喉を押さえ咳き込む彼と目が合う。自分は今、どんな顔をしているのだろう。
(なんで、そんな眼で僕を見るの)
怒っている様子は無い。ただ、どこか寂しそうな、泣いてしまいそうな眼。

「…シュ、ウ…俺、は…」

無理して喋らないで、そう思ったら手が勝手に彼の口を押さえていた。人差し指でそっと押さえた唇は予想以上に熱を持っていて、その温度をリアルに感じてしまったならキスせずにはいられなかった。
触れるだけのキス、涙目の彼、頭の狂った僕。

「ごめん、ごめんね白竜…だけどっ……っ!?」

音にしようとした次の言葉は、彼からのキスで全部飲み込まれてしまった。

「も、謝る…な…」

僕は目を丸くして何も言えなかった。どうやら今度は少しばかり怒っている、らしい。
触れて来る手を取り指を絡めて引き寄せようとしたら逆に引き寄せられ、二人でベッドに倒れた。

「…眠い」
「そうだね…夜はまだ、明けないもの」

深い海の色を移したような空には数えきれないほどの星が瞬き、白い月が優しく島を照らし出しているだろう。月に導かれ、星を繋いで絵を描き、さざなみの音に耳を澄ませる。彼とやりたいことの、ひとつ。
頃合いになったらそっと部屋を出ようとしたけれど、いつまでも離してくれそうにないのでそれは早々に諦めてしまった。代わりに繋いだ手をゆっくりと解き、彼を腕の中に閉じ込めた。

「おやすみ、白竜」

眠れ眠れ。夜の帳に包まれて、命の音を奏でながら朝日が昇るその時まで。さあ眠れ眠れ。




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