確信犯で君を呼ぶ、無意識に君の声を聞く
特別耳が良いのかと言えば別段そんなことはなくて。なのにあの声は、
『白竜』
彼が自分を呼ぶ声は、いつだってはっきりと聞こえる。
アンリミテッドシャイニングとエンシャントダークの練習試合を行った後、繰り返し頭の中に響く音。フィールドの端から端まで駆け回り、化身も技も出して体力もギリギリな現状からすると正直とても煩わしい。
「ねぇはくりゅ…」
「うるさい」
「何が?」
いつだって涼しい顔をしているこいつを見ると、まだまだ鍛練が足りないんだと思い知らされる。もっと、もっと強くならなくては。
機嫌が良くないのを隠しもせず突き返しても、彼はそんなこと何でもないのかへらりと笑う。
「そんなに呼ばなくともちゃんと聞こえてる…」
頭の中に響く彼の、俺を呼ぶ声。
嫌いとか嫌だとかそういったことは無いが、度が過ぎると扱いが面倒だ。そのうち構ってくれだとか言い始める。
刹那、目を丸くした彼が次の瞬間には嬉しそうに笑う理由が、よくわからなかった。
「僕、そんなに声に出てた?」
「だから聞こえるんだろ」
第一、テレパシーが使えるわけでもないのだから声にしなければ聞こえるはずがない。しかし彼が俺のことを呼んでいるのは確実なのに、誰一人としてそのことには気付いた様子は見受けられない。
まるで自分にしか声が届いていないかのように。
「白竜は特別だもん」
「意味がわからん」
「白竜にとって僕は特別でしょう?」
「何故その結論に到る」
俺の手からボールを取り、それを空いたゴールにわざわざ技を使って入れた。
技が出されて、ゴールネットを揺らすまでの僅かな時間。その間にもこの耳は音を拾う。
「聞こえているよね?」
「場所を考えろ」
「大丈夫だよ」
「君以外には聞こえないもの」
そう言われてやっと、無意識に彼の声ばかりを拾っていることに気が付いた。