ゲンタ+ビャクガ(cfbeS)
いつからあいつは、泣かなくなったのだったか。
「ほら、あんまり目ぇ擦ると赤くなるから」
そう言って昔はあの薄い灰色の目が赤くならないようによく注意していた気がする。仕事の忙しい父には心配させたくないと言って、家では決して泣かなかった。だからせめて、ここでは我慢しなくてもいいのだと俺の前だけでは泣いても構わないと返した。
それから何年かが過ぎ、途中あの事件が起こったりして、現在ではお互い北と西のBマスターになった。あぁまた一人で泣いてはいないだろうか、そんなことを思って様子を見に行けばそこに居たあいつはまるで別人のようだった。
『御曹司、客人だ』
「すごいなビャクガ!西エリアでクロスファイトを禁止にしたんだって?」
「大したことじゃない」
声に感情の色が見えない。表情すら何ひとつ変わらない。誰だ、お前は。そう思うが何度見直しても目の前の人間はやはり自分の親友に間違いは無くて。
「クロスファイトがロードファイトの邪魔になるから、禁止にしたまで」
「全てはグランドBマスター様のため」
昔から我慢ばかりしていた奴だった。しかしそれでもまだ、時折笑ってくれていたのに。今はもう我慢というより、自身の感情全てを封じ込めてしまったみたいだ。
それは泣きもしなければ笑いもしない、喜怒哀楽を失くしてただ勝ち続けるだけの人形のよう。
「……お前はもう、泣かないんだな」
泣かないで居てくれた方がいいけれど、望んでいたのはこんなことだったのだろうか。