凌牙*W(ygo-z)



首に、腕に、足に、緩く巻き付き絡む細い糸。その先をゆっくり辿ると、そこに居たのは俺とは比べものにならないくらい無数の糸によって玉座に縛り付けられた、あいつの姿だった。
口は動いているが声は聞こえず空気が掠れた音だけが響く。焦点が定まらないらしく目の前に立っても視線が合わない。それは誰が見ても酷く無惨な姿だった。

「踊らされた操り人形、か」

極東チャンピオンという玉座に座らされ、実の父親に駒としか見られなかった憐れな人形。
手を伸ばし玉座に縛り付ける糸をひとつ、ふたつ、目についたものから順に引きちぎっていく。だが切っても切っても糸は減らない。まるで自分の意思で動くことを何かが阻止しようとしているかのようだった。

「てめぇ、こんなトコで何してんだよ!」

「自分の足で立って踊ってみせろよ!」

びくりと肩が震え指が動く。もう少しで届きそうなのに届かない、ならば。
あいつが縛り付けられている玉座には見覚えがある。なかなか出さないからほんの数回しか見たことはないが、おそらくNo.88のものに間違い無いだろう。その後ろにはズタズタにされて山積みにされている人形たち、というよりこいつの使うモンスターが見える。
ARとは似て非なるものだが出来ないことも無いだろう。きっと俺も、喚べば現れる。

「――…現れろ、ブラック・レイ・ランサー!」

頭上にオーバーレイネットワークとよく擬似した光の渦から現れ、そこから降って来たのは鋭利な刃を持った槍だった。

「勝手にくたばるなんて、許さねぇからな」

ゆっくりと手に取り、その槍をあいつに向かって勢いよく降り下ろした。










「――……うが…」

「…りょう、が…」

自分の名前を呼ぶ声に目を覚ませば、隣に寝ているWが魘されている。それを見たらつい先程まで見ていた夢の映像がフラッシュバックして何故か放っておけなくなってしまった。

「…何で俺を呼ぶんだよ」

声が次第に聞こえなくなり、喉がひゅう、と音を立てている。本当にあの夢とそっくりだった。
だから仕方なく肩を揺すり多少荒っぽく叩き起こす。

「おい、起きろW」
「…う…」
「起きろ、首絞めるぞ」

首に手をかけた所でゆっくりと瞼が上がり、深紅の瞳と視線が合う。腹立たしいくらい綺麗な紅い瞳。

「…凌牙、だ」
「此処は俺の家だからな」
「そうだ…昨日の仕事場から、ホテルよりこちらの方が近かったので…」

朝から頭が痛くなる。目が覚めた時に何でこいつが居るんだ、とは思ったがまさかそんな理由だったとは。着替えも勝手に人のを着ているし、脱いだ自分の服は床に散らかしたままだ。
まだ夢現なのかぼんやりとした目でうつらうつらしている。その所為か口調がぐちゃぐちゃと入り交じっていた。

「さっきの、夢…凌牙が居た…」
「そーかよ」
「…糸を、ひたすら切っていました」

糸、と言われて思い出すのは先程の夢。有り得ないとは思いつつも、もしかしたら似たような夢を見ていたのだろうか。

「お前はその糸に抗わなかったのか」
「気付いたら、動けなくなってたからな…」
「馬鹿か」
「…そうだな…そうかもしれないですね」

そう疑問に思いながらも会話がまともに成り立っているということはやはり、同じ夢だったのかもしれない。
ゆっくりと伸ばされた手は、何を掴むでもなく空を切った。

「でも凌牙が切って、」
「…うぜぇから昼まで寝てろ」

それ以上何も言うな、と言いたくて掛け布団を思いっ切り頭まで被せてやった。
こいつからの余計な言葉など聞きたくないから。



(父さんに必要としてもらえるなら、例え操り人形でも構わない)
(そんな自己犠牲、てめぇらしくねぇんだよ)



(糸を引き千切って足掻いてみろよ、お前ならそれが出来るだろ)





傀儡儀式(くぐつぎしき)



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