カイト*V(ygo-z)
「君を恨むことなど、間違いだとわかっていた」
真実を知って本人ならいざ知らず、血縁関係しか持たない彼を憎むのはお門違いな話だ。それはわかっていたことなのに、自分の中に生まれてしまった復讐心は止められなかった。
「でも自分を抑え切れなかった。だからせめて君を傷付けないように、私は君から離れたんだ」
これ以上一緒に居たら彼を傷付けてしまう。例え自分がどんなに苦しんだとしても、それだけは避けたかった。
本当の弟のように、思っていた彼だったから。
「あの時貴方を引き留めることが出来なかった。それは、俺が弱かったからだ」
雨の中突き飛ばし、何も言わずに出て行った。口を開いたら醜い言葉ばかりが溢れ出てしまいそうだった。
飲み込んで溜め込んで、必死に隠した汚い感情。どうしても彼にだけはぶつけたくなかった。
「あの頃の俺は何も知らなかった、知ろうともしなかった。貴方が傍に居てくれるだけで居心地が良かったから」
ゆっくりと引き寄せられ、ぎゅうと抱きしめられる。小さいと思っていた彼は、いつの間にか私の知らないうちにこんなにも大きくなっていた。
「しかし結局私は、君を、君たちを傷付けてばかりで…っ、」
続く言葉は、意図も簡単に飲み込まれてしまった。
知らない、知らない、知らないことばかりが積み重なっていく。いつ、こんなことが容易く出来る人間になったのだろう。いつ、大人になったのだろう。
「もう、一人で抱え込まないでいいんだ」
空白の期間を埋めるにはまだまだ時間がかかるはずだ。でも今はただ、彼に寄りかかる。きっと、そうしても平気なくらい彼は強くなったから。
「おかえり、クリス」
「…ただいま、カイト」
そう言ってくれる彼の手が、声が、私には心地良かった。