月光+長男(BS三期)



「…バローネ殿っ、」

声をかけても止まらず、名前を呼んでも振り向かず、腕を掴んだら掴んだそばから振りほどかれる。

「待って下さい、傷の手当てを――」
「いらん」
「悪化したらどうするつもりですか!?」

目の前に立ち塞がってやっと歩みを止め、こちらを見てくれる。その視線は、鋭くもどこか柔らかい。
頬に走る三本の引っ掻き傷。出血は無いものの赤くなり皮膚が抉られている。見るからに痛々しくて思わず手を伸ばした。

「触れるな、汚れる」
「何が」
「お前に何かあればデュックに怒られる」
「親父殿に…?」

伸ばした手は叩き落とされ、彼はひとつ溜息をついた。
でもこちらとしても簡単には引き下がれない。やることはやらなければ。

「でも、今親父殿は関係ありません」

「手当てをさせて下さい」

理由は何であろうと原因を作ったのは自分なのだ。だから自分にはそれ相応の義務がある。



一応消毒をして、白い絆創膏を貼り付ける。薬剤が染みるだろうに彼は消毒をする際一切動かなかった。それこそ恐ろしいくらいに。

「終わりました」
「そうか」
「これから、どうされるんですか?」
「わからん」

ローマを剥奪され行き場の失ってしまった彼は、どうするのだろう。親父殿の居ない我が領地も、どうしたらいいだろう。
先ほどまで宙をさ迷っていた視線が不意にこちらへ向く。その表情は楽しそうだ。

「一度勝ち取ったものだ、お前とバトスピ三昧もいいかもしれん」
「…こちらとしてはご遠慮願いたい内容ですね」

彼が来てくれたら――
頭の隅でそんなことを考えていた。




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