凌牙*W(ygo-z)
本当は、ただ傍に居て欲しかったのかもしれない。
深い深い海のように暗く蒼い瞳が鋭く突き刺さる。そして次には蒼い瞳がぐらりと揺れ、顔が歪むその瞬間が堪らなく愉しくて、快感だった。
「もっとだ、もっと苦しんでくれよ!」
肩が軋むほど体重をかけて身動きを封じ喉笛に噛み付いた。小さく声が上がり喉が震えるのが噛み付いた歯を通じてわかる。
いつぞやのお返しとばかりにくっきりと歯形を付け、へこんだそこにまた軽く噛み付く。そうして甘噛みを何度か繰り返してはまた唇に噛み付こうとしたその時だった。
「っとに、同じトコばっか噛むんじゃねぇ!」
体重をかけて押さえ付けてはいるものの、下半身は比較的自由だったらしい。だからかろうじて動くであろう足を使って盛大に蹴りを入れられた。背中が痛い。
「何しやがるんだよ!」
「少し黙れ」
刹那の出来事だった。
手を伸ばしそっと顔を引き寄せられ、目前に迫る蒼い瞳に溺れそうになる。そこへ突然べろり、という表現が適切だろうと思うぐらい大胆に傷痕を舐められた。
「は…?」
「すっげぇ間抜けな顔」
頭が追い付かなくて事情が読み込めない。状況が理解出来ないから動きが取れない。なのに何故目の前のこいつはこんなにも余裕たっぷりで笑うのか。実に腹立たしい。
そうしているうちにまた引き寄せられ、傷痕に口付けられては丁寧に舐められる。それを何度、繰り返しただろう。
不思議と、嫌だと言って撥ね除ける気にはならなかった。
「俺はお前のことを許さない」
「知ってる」
「一生背負え、お前が犯した罪を」
「そんなことわかってる」
「でも、」
「…なんだよ」
先程までは俺が上から押さえ付けていたが、ふとした拍子に今度は逆に押さえ付けられ白い天井が目に入る。癖のある青い髪と白い天井のコントラスト、まるで空か海だ。
「持っているものの重さに押し潰されそうになったら、少し休めばいい」
ゆっくりと口を開き吐き出される言葉。しかし予期しなかった声色のあまりの柔らかさに、つい何も言えなくなった。
何だこいつ、明日は槍でも降るのか。
「ばーか、凌牙のくせに生意気なんだよ」
するりと首に腕を回して、これ以上余計なことを言わないように口を塞いでやった。
お前という名の海に溺れたのは、果たしてどちら?
異次元海溝(いじげんかいこう)