凌牙→←W(ygo-z)



「…噛み付くな」
「嫌だ」

カチン、とチョーカーが小さく音を立てる。何故かと言えば目の前に居る奴がそれに噛み付いたからだ。
一度離したくせにもう一度噛みそうになったから、腕にぐっと力を入れて引き剥がす。今回が初めてというわけではないがやっぱり慣れない、顔が近い。

「何しようと俺の勝手だろうが」
「そういう問題じゃねぇ!」
「それに噛み癖あんのはお前だろ」

そう言って上着の前を開けて見えた首筋にはくっきりと残っている歯形が数個。一瞬何のことかわからなかったが、思い出した途端慌てて意味も無く口を押さえた。

「凌牙、思い出したかぁ?」
「それっ…」
「そうだ、お前がこの前噛んだ痕だよ」

思い出した。そういえば、噛み付いた。
確かいつも通り何か些細なことで口論になり腹が立って噛み付いた、気がする。だがあんなにくっきりと残るなんて思いもしなかった。

「お前の歯、尖ってんのか刺さんだよ」
「どういう意味だ」
「ほんっと、"シャーク"って名前がお似合いだな、凌牙」

したり顔で笑う極東チャンピオン。いつだって俺のことを呼ぶこの声が、嫌なのに何度でも頭の隅を掠める。
そんなことをぼんやりと考えていたら反応が遅れ、またすぐ近くに顔があった。

「Wッ…!」
「遅ぇよ」

不意打ちで再び噛み付かれる、それも今度は唇に。しかもただ噛み付くだけではなくブツリと噛み切られた。
ゆっくりと口に広がる血の味、じわじわ痺れるような痛みと次第に熱を持ち始める傷口。

「いっ、つ…」
「いいねいいね、もっと顔歪ませて痛がってくれよ」
「何のつもりだ!」
「何って、特別ファンサービスだ!」


馬鹿馬鹿しい、付き合ってられない。だから襟を掴み一気に引き寄せ、また首筋に噛み付き痕を付けてやる。切れた唇からじわりと滲む赤い血がこいつの白い上着を汚したが、俺は何も見なかったことにした。



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