カイト→V(ygo-z)



あの時は手が届かなくて引き留められなかった。雨が降りしきる中、どうしたらいいのかわからない。とでも言いたげに苦しんでいた貴方の瞳は、何も知らない俺が見ても酷く揺れていた。
でも今は掴まえられる腕を手に入れた。それは確かに、あの時望んだ腕だった。

「なのに、どうしてなんだっ…!」

貴方に追い付きたくて、弟を守る力が欲しくて、そのためにひたすら腕を磨き強くなった。自らの身体を酷使しても、他者を犠牲にしても、構わなかった。
利用出来るものは何だって使ってやった。弟を救えるのならば、またあの頃のように笑えるのならば、何を支払ったとしても安いものだった。

(君はもっと強くなれる)

(カイト)

(大丈夫だ)

教えてもらった言葉はいつまでも色褪せることは無く、戦略も考え方もいつだって無駄も隙も無かった。
自分の根底に存在するのか、どんなに忘れようとしても記憶から消えることの無かったあの柔らかい笑顔。彼を苦しめたのが父ならば父に抗おう、他の者なら俺が代わりに倒そう。

(君たち兄弟は、本当の弟のようだった)

「やっと貴方に、届いたと思ったのに…」

掬い上げた指の間から星が零れる。残ったのは大きな天蓋星がただひとつだけ。





貴方を掴まえられる腕を手に入れたのに、今度は貴方に触れられない。



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