南雲と涼野



※いろいろと適当



「晴矢は、綺麗に跳ぶな」

例えるならそう、走り高跳びの背面跳び。その反り返りバーを越える瞬間のような刹那の美しさ。
高く高くいつか空にも届きそうなほど軽やかに、制空権を支配する鳥のように鮮やかに。

「はぁ?」
「だが太陽に近付きすぎた者はその羽を取られ、深い海へと沈んでいくそうだ」
「ちょっと待て、意味がわからない」
「せいぜい気を付けるといい」

昔々太陽に近付こうとある者は羽を作った。蝋を固めて作ったそれは高く高くまで羽ばたき、ついに手が届きそうになったその一瞬、羽は姿を消した。羽をもがれた者は成す術も無く、青く深い海へと吸い込まれてしまった。

不敵に笑った風介に晴矢は意味がわからず首を傾げた。だが、くるくると回転速度を上げた晴矢の頭はひとつの答えに辿り着く。

「風介、」
「ん?」
「矛盾してるぞ」
「…知っているさ」

晴矢が高く高く跳ぶその綺麗な様を見ていたいと思う反面、人に見せてしまうのは勿体ないからその足を折ってしまいたいと思ってしまう。
その一見歪んだ考えが矛盾していることなど、風介は自分でも重々理解していた。

「それでも私は、跳んだ君を見たいし見せたくない」
「我儘な奴」

ぱたぱたと手を振りながら、呆れた口調で話す晴矢に風介は再び笑う。それは、何を今更言っているんだ、と伝えていた。

「でも、お前らしいよ」

全てを承知の上で晴矢は、風介の手を取り走り出した。

二人なら、もっと高く跳べる。