カノンとバダップ




高く高く舞い上がる。激しい回転をかけられ鋭い直線を描きゴールに突き刺さるシュートを、ただただ声も出せずに見惚れていた。

(綺麗…)

そのシュートには付けられた名称の通り多少の禍々しさがあるものの、彼自身から以前のような敵意は感じられない。
あるのはただ、今は自分の意思でやっているサッカーだということ。

「お疲れ様!」

タオルを差し出してにっ、と笑えば小さく彼も笑った。最近は表情が初めて会った頃より増えている、そんな気がする。

「君こそ」

第一印象は敵対していただけにあまり良くはなかった。
サッカーは人間を堕落させる、悪である。そう教え込まれた彼らからぶつけられる凄まじい敵意。ビリビリとぶつかるそれはとても痛かった。

「今日は、いつもより打点が高かった?」
「高めに上げられたセンタリングを更に上げたから、その所為だろう」
「バダップはよくあんなに跳べるね」

でも今は、サッカーがどんなものかを理解してもらえて更には一緒にプレーや練習試合までしてくれる。それも全部、自分の意思で。

「あまり気にしたことが無かったな」
「バダップが跳ぶのってさ、すっごく綺麗だよね!」
「……言っている意味を、図りかねるが」
「だって俺、何も言えなかったもん!口開けて見てただけ」

声で言葉で相手を論破して魅せるのも鮮やかでありながら、彼はそれだけに留まらず軍における実技や演習においても他を圧倒的に突き放すほどの実力を持っていると聞いた。
"舞い上がる"という表現にぴたりと当てはまるそれは、例え始めは"戦闘行為"から生まれたものだとしてもただ、美しかったのだ。

「"無駄が無い"という意味ならば誉め言葉として受け取っておこう」
「うーん、それももちろんあるんだけどさ…」
「だが、」
「ん?何?」

「君が宙を駆ける姿も、悪くは無いと思う」

抑揚の無い淡々とした飾らない言葉で告げられるそれは、彼のように素晴らしい回転をしてみせるはずもない自分の単純な思考回路を一時的にショートさせるには、あまりに十分すぎた。