シュウと白竜




「シュウ」

施設の長い廊下を歩き、向こうからやって来たあいつの腕をすれ違い様に掴む。嫌だと振り払う様子も無く、いつものようにふにゃりと笑って首を傾げる。

「なぁに?白竜」
「好きだ」
「うん?」
「だから、好きだ」

はっきりと伝わるように言葉をゆっくりと音にする。一度で駄目なら二度。
目の前で黙るこいつは俺に何を言われたのか理解出来なくて必死に状況を整理しているのだろう。頭が物凄いスピードで回転しているのが、他人の俺から見ても想像に難しくない。しばらく待つと頭の中が整理出来たのか、口をぱくぱくと忙しなく開閉を繰り返し始める。そして慌てたように捲し立てながら話すのだ。

「……は、白竜っ、君は今僕に向かって「好きだ」と言ったのかい!?この僕に好意の言葉とも取れる台詞を吐いたのかい!?」
「吐いたかどうかは知らんが「好きだ」とは言ったぞ」
「白竜が僕のこと好きだなんて…!」
「貴様、ホワイトハリケーンを至近距離で打たれたいか」

シュウからは「好き」だの何だの飽きもせず言われるのだが、改めて考えると自分から言うことはほとんど無かった。だから今日は俺から先に言ってみたのだが、聞き慣れない言葉だからか酷く混乱しているらしい。

「俺に言われるのは、嫌か?」
「ちっ、違う!それは絶対違う!」
「じゃあなんだその態度は」

落ち着かない態度に多少苛ついたので、掴んでいた腕を乱暴気味に放せばそれと同時に抱きしめられる。突然のことに今度はこちらが状況を理解しようとする番になってしまった。何が、起こった?

「おいシュウ、」
「君がそう言ってくれるのがすごく嬉しくて、僕はどうしたらいいのかわからないんだ」
「嬉しいのか?」
「うん」
「俺に「好きだ」と言われて?」
「当たり前じゃないか!」

「だって他の誰でもない白竜が、僕に「好き」と言ってくれたんだよ!」

抱きしめる腕に力が入り少々苦しい。でもこいつがこんなにも喜んでくれたのなら、たまには言ってみるのも悪くないかもしれないと思ってしまった。