雨宮と白竜



※下の続き、的な



いつから、変えてしまったのだろう。



「僕は、前みたいに「太陽」って呼んで欲しいんだ…!」

制服の裾が皺になるほど強く握りしめ、震えるような声で必死にそう言った。正直、どうしてそこまでこだわるのか俺にはわからなかった。それもそのはず、俺には「白竜」という名前しか無いのだ。名字、名前と区別する認識が人より甘いのかもしれない。
確かに以前は彼のことを名前で呼んでいた。それは間違いないし自分自身覚えてもいる。だが何がきっかけで変えてしまったかと言われれば、単純に時間だと思う。

「どうしてお前は、「雨宮」じゃいけないんだ」

わからない。
結局はどちらも「雨宮太陽」なのに。

「…白竜に「雨宮」って呼ばれると、すごく距離を置かれたような気がするんだ。それが、嫌だ」

ふと気が付いたら、街並みは西に向かって沈みつつある陽によって夕焼け色に染められていた。今しばらくすると街灯が辺りを照らし始め、星が輝く空に変わるだろう。
冬は他の季節よりも空気が澄んでいる。より一層綺麗に星が見えるはずだ。

「確かに剣城君ほど君には近くないかもしれない。それでも、それでも僕は――」

少しずつ理解してきた。要は名字で呼ぶと他人行儀でよそよそしいと言いたいのか。人との距離を名前によって突き付けられる、人間とは不便な生き物だ。
しかし俺も、こいつを昔と同じように名前で呼ぶのをどこかで躊躇っていた。だから無難に名字で呼んでいたのかもしれない。

「お前と離れていた期間が長かった。その間に俺もお前もたくさんのものが変わってしまった。だから、」
「僕も君も、何も変わっていないよ。僕は僕のままだし、白竜は白竜のままだ」
「……そうか」

ぎゅうと制服を握りしめていた彼の手がゆっくりと俺の手を取り、色の薄い手と手が重なる。
変わったと、誰が決め付けた?変わっていないと、何故信じられなかった?
(ほらこんなにも、同じじゃないか)

「じゃあ、名前で呼んでくれる?」
「太陽」
「何?白竜」

嬉しそうに笑うその姿は、昔と何等変わっていなかった。



(何、ってお前が呼べと言ったのだろう)
(ならもう一回、いいでしょ?)
(太陽)
(白竜ー!ありがとう大好き!)
(いきなり抱きつくな!)