シュウと白竜




不意にぼろぼろと涙が零れる。しかも流れたそれは、透明かと思っていたのにあの黒い涙だった。

「汚れるっ…」

汚してしまう、白い彼を僕の黒い涙が。そう思って離れようとしたけど叶わなかった。
腕を掴まれ引き戻されて。黒い涙は止めどなく溢れてぽたりぽたりと彼の服を汚す。白い服に僕が落とした黒い染み。

「気にするな」
「だけど、」

まるで墨を垂らしたみたいに黒々と斑点をつけていく。汚れた斑模様の服を着た白竜に、ぐしゃぐしゃな泣き顔を晒す僕。チームの誰が見ても絶句するような光景だろう。
彼が上着の袖で僕の零した涙を拭うから、みるみるうちにそこが黒く染まる。

「乾いたら消える」
「気持ち悪くないの…?」

常識から考えて黒い涙なんてものは有り得ない現象だ。しかし始めはこんなことなくて化身が具現化する際に出る気が、涙のように目から溢れていた。
でもそれがいつの間にか実際の涙まで黒くなって、自分で自分が気持ち悪かった。人間じゃないと突き付けられている気分だった。

「別に、涙が黒いくらいでどうしたっていうんだ」
「…化け物みたいじゃないか」
「お前はお前だろ」

触れた部分から体温を感じる度に自分の低い温度を思い出す。いつか無くなるであろう温度を怪しまれないギリギリ最低で保ち続けているそれは、時に滑稽にも思えた。
触れたいのに躊躇っていたなら、ゆっくりと与えられる白竜からのキス。涙はまだ止まらない。

「シュウはよく泣くな」
「君が、いけないんだ…白竜が、僕にそんなことするから…っ、」

優しく出来ないのに優しくされたら苦しくなる。あぁ、息苦しさに呼吸まで止まりそうだ。