シュウと白竜




嘘も裏切りも何もかも、吐き出した言葉と真実が合致しないから人は傷付く。ならば言葉なんて不要じゃないか、何の意味も持たない無駄なものだから。無ければ人は真実しか手にしないから傷付かない、それを受け入れるしか術は無い。

「言葉なんて薄弱なもの、俺には必要無い」

理屈や論理を聞くよりも実力や技術を見せてくれればそれで構わない。逆を言えばそれ以外要らない。
自分と同じユニフォームを着た背中にずるずるともたれかかった。

「声だけ聞かせてくれればそれでいい」
「でも君は僕の言葉を聞いて、僕を選んでくれた」

投げ出した手に重なる手。
恐らく言葉なんて聞いてなかった。ただ目の奥にあった深い深い闇のような黒と、外見にはそぐわない激しいプレイに突き動かされる何かを感じたから。それだけだ。

「…違う」
「ねぇ、白竜」

でも今は言葉の甘さを知ってしまったからもうあの頃には戻れない。このままだと弱くなるだけで強くなれない、そう思うのに繋いだ手を離せないでいる。
ずるりと引き寄せられ、見えたのはあの時と同じ黒い瞳。

「そんな顔しないで」
「だが、」
「一人じゃなくて、二人で強くなろう?」

「それじゃ、駄目かな…?」

無駄だと切り捨てたはずの言葉を拾う耳に響く、柔らかい声。心地良く鼓膜を揺らすそれはきっと特別。

「それも、悪くないかもしれないな…」

真綿で首を絞められている感覚に溺れながら這い上がれないでいるのは、大層愚かな姿だろう。そんな愚かな姿を晒してもなお、何故こいつは俺に構うのか。
わからないけれど、今は甘い泥沼に浸かっていたい気分だった。