剣城と白竜




「剣城、剣城っ!」
「…なんだ」

一度で聞こえているというのに騒がしい声が繰り返し名前を呼ぶ。面倒ながら返事を返せばバインダーを片手に隣に並び、白い指が紙の上を滑る。

「フォーメーションの話だが、前半はお前がここのポジションについているだろう」
「あぁ」
「同じポジションに後半は俺が入る。だから次は――」

的確な指示を聞くと生半可にただキャプテンをやっていたのではないことがよくわかる。雷門のキャプテンとはまた違った戦略で人を動かす。

「――ということでどうだ剣城!」
「いいんじゃないか、バランスも良いし」

別にこれといって褒めたつもりではなかった。
しかし本人にとってはそれなりに嬉しかったらしく、俺にもわかるくらい喜んでいた。その証拠に先ほどより顔が緩い。

「何笑ってんだ」

だから頬を掴み、伸ばしてから離した。そこそこには痛かったらしく赤くなった頬を押さえてまた騒がしく喚くのだ。

「突然痛いだろう!何なんだ貴様は!」

何だかおかしくなって思わず小さく笑えば、痛いくらい鋭い視線が目の前の奴を通り抜けて自分に突き刺さる。どす黒い、視線。誰かなんて考えなくともわかってる、こんなもの一人しかいない。
それを俺に向けたまま、声にはせず唇だけが動いてこちらに言葉を伝えた。

『        』

勘違いも思い込みも、的を外れたものばかりで溜め息が出る。


(残念、向けられているこれは好意ではあるが愛情ではない)
(勝ち組はお前だ)