北国師弟 隣に居たって消えてしまうのではないか、という不安はいつまで経っても拭い切れない。 所謂精神的外傷、もう何年も過ぎるのにそれは未だ色鮮やかに蘇る。昨日のことのように、とまではいかないがそれでもはっきりと映る。 「大丈夫ですよ、吹雪先輩」 温かい手に頬を寄せ、薄い胸に耳を当てれば生きている音がする。規則的な鼓動の音。それだけで不思議と落ち着くのだ。 「雪村、」 出した声は驚くほどか細く震えていてつい自嘲してしまった。 怖い、恐い。僕も彼も、お互いが居なくなって独りになることが何よりも怖い。 繋いだ手を一度離し、改めて彼を抱きしめる。いい歳して子供っぽく抱き着くとくすくすと笑い声がして、顔を上げれば彼が綺麗に笑った。 「俺は」 「消えませんから」 僕はその声を聞いて抱きしめる腕を解いてあげることも、力を抜いてあげることですら出来なかった。 (君は、僕の希望) |