円堂と基山




「円堂君も、どこかに消えてしまうのかな…?」

夕方買い出しから帰る時に、ヒロトがそんなことを口にした。横からではきちんとした表情は窺えないが、声から察するにはほんの少し震えていた、気がする。
すぐに否定してしまえばよかったのに、言葉の真意を探ろうとしていたらタイミングを逃し何も出なくなった。

「少しずつ、そうまるで砂時計のように何かが零れていく感覚」

ゆっくりと夕日に透かしたヒロトの手は太陽の光なのか、それともそこに通う血なのか真っ赤に染まって見えた。隣で自分も同じように手を透かせばこれまた当たり前に真っ赤になる。
でもヒロトの手の方がずっとずっと綺麗で、小さく見えた。くっつけてみればきっと大して変わらないはずなのに、何故だろう。

人はこの両手にどれだけのものを持つことが出来るのだろうか。自分も危うく大事なものを失いそうになったことがあるから、じわじわと迫り来るその感覚はよく知っている。

「ヒロト、」
「何?」

でもそれが砂時計のようなものなら、解決の術がひとつだけある。
簡単な方法、しかし自分でそれが出来ないのなら、いつだって俺がやってあげるから。

「砂時計なら俺がひっくり返してやるよ」


「そうしたら、零したもの全て手に返って来るだろ?」

笑ってそう言ってやればきょとりと目を丸くするヒロトがあまりにも可愛くて、夕日に透かした手を取って走りだした。