伊豆野と基山




パチンと頬を叩かれた。痛みはほとんど無くてきっとほんの少し赤くなるだけだろう。小さな子供にするような、そんな優しいもの。
始めは意味がわからなかったけれど、その後すぐに頭を撫でられたからなんとなく言いたいことはわかった。

「馬鹿野郎」
「怪我はしてないよ」
「無茶しすぎだ」

嘘はついてない。体力的には限界を超えていたけれど実際怪我はひとつもしていない。
始めから怒られることは予想していた。けれどそれを狙ってわざとこんなことをしたのではない。

ひとつでも多くシュートを決めれば、画面越しに君に会える。まぁ、会えるといっても一方的に観られるだけで会話も出来ないけれど。
でも、それだけでもよかった。

「心配させるな」
「ごめんね」
「ったく…」
「由宇に早く逢いたかったんだ」

声が聞きたかった、
言葉が聞きたかった、
何よりもこの目で君を見たかった。

呆れたように溜め息をつくその姿もどこか懐かしい気がする。そんなに離れていた訳じゃないのに、何故かこういった感覚ばかりが鈍っていく。

「だからってこんなことしたら次に響くだろ」
「でも間違った選択をしたとは思ってないよ」


「由宇に早く逢いたかったんだ」





全てが甘い言葉だった。