流星にお願い

2人で天体観測/どちらも大概ロマンチスト


「あ」
 星座の位置が書かれた本を広げ、無言のままテレスコープとそれを見比べていた凌牙が急に声を上げる。どうした?と俺が尋ねれば、「…チッ」と小さな舌打ち。
「消えた」
 唇を尖らせて、せっかくの機会を逃したとばかりに拗ねた凌牙に、俺は漸く納得して、フッと笑ってやる。
「――流れ星か。とんだロマンチストだな…今日の目的は夏の大三角だろう?」
「あんな速いモンに願い事3回とか絶対無理だろ、普通」
 さらりと俺をスルーして、ぶつくさ言いながら再びテレスコープを覗く彼に、そういえばとインターネットで見つけた情報を思い出す。流れ星と言えば。
「もうすぐペルセウス座流星群だったはずだ。流れ星にお願いはその時まで我慢しておけ」
「んー…」
 熱心にテレスコープを覗く凌牙には、俺の声が届いたかどうか分からないが、取りあえずは返事(らしきもの)をしてくれたので良しとしておこう。
「すっかり夏だな…」
 気温も随分高くなって、夜でも平気で外にいられようになった。
暑いのも寒いのも耐えられない凌牙だが、有難いことに今年の初夏はまだ過ごしやすい気温を保ってくれていた。来月になれば更に気温が上がって、恐らくは夏バテするだろう彼のために今から予防策を練っておく必要があるな、と俺は腕を組む。
「来年はおうし座流星群の時期に彗星が来るんだとよ」
「ほう…誰から聞いたんだ?」
「妹」
「………」
 暫し無言の後、「あったあった」と凌牙が漸くテレスコープから目を離して肩を叩いた。どうやら無事に夏の大三角を発見できたようだ。
 テレスコープを覗き込めば、凌牙が見つけた夏の大三角が映っている。
 元々、天体観測は凌牙の妹の趣味だった。だが事故に遭い、病室で身体の大半を白い包帯に巻かれてしまっている状態で、それは出来ない。
 だから彼女の代わり。妹に付き添って星座を見つけに来たこの場所に、それからは一人で度々訪れているのだと俺が彼から聞いたのは、つい先週のことだ。
「流星群の時は弟、連れて来いよ」
「ああ。ハルトも喜ぶ」
 今頃は泊まりに行った遊馬の家で、もう布団に入ったかもしれないハルトにこの話をしたら、きっと大喜びしてどんな願い事をするか考え始めるだろう。
「願い事、か」
「ロマンチストで悪かったな」
「…いいや」
 自分の願い事。俺はハルトとずっと一緒にいたい。それだけをずっと考えて来た。それだけが俺の幸せだった。
「(だが今は…)」
 今までハルトしかいなかった幸せの中に、今では彼が――凌牙がいる。
「(流星群には、凌牙の幸せを願おう)」
 流れ星に願い事なんて、柄でもないことは分かっている。だが彼が不幸せなら、自分もまた不幸せになってしまうことに、俺はもう気がついていた。
 だからどうか流星よ。彼を幸せにしてあげてほしい。

 願わくば俺の隣で。



2012418



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夏の話ですが、世間はすっかり春ですね。因みに道産子の管理人は過去、GWに雪が降るとかいう怪現象を経験したことがあります。




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