4、二人のアドニス




IVが研究室へ足を踏み入れたのは12時。
一緒に食べようと思って作ったランチを、バスケットへつめておいた。
(そのために別行動をとったのだ。凌牙はきっと驚くだろう)
それを抱えながら廊下を進む。
研究室では精密機械が多く、埃や塵は大敵だ。研究室前で空気シャワーを浴びてから、専用の白衣を着た。

「凌牙!」

バスケットを背中へ隠しながら、研究室へ足を踏み入れる。
しかし、コンピュータとにらめっこをしているはずの凌牙の姿はなかった。

「……」

代わりに、自分と目が合った。
そっくりそのままの姿をした自分が、目の前にいる。
IVが二人いるのだ。

「おい見てんなよ、スクラップ」

目の前のIVが、ずっと低い声で囁いた。
彼は既に白衣といくつかの衣類を脱いでいて、神秘的な色の肌が覗いている。
その下にいたのが凌牙だった。
デスクに押さえつけられるようにして、うつ伏せになったその体。神経質な凌牙の性格を表しているかのような白衣は大きく乱されて、むき出しの肩が覗いていた。

「IV……!」

凌牙が顔を上げたが、すぐに揺さぶれてまたデスクにしがみつく。

「トーマ、やめ……!っひ、ン……」

もう一人のIVは、凌牙の上に重なりながら小刻みに腰を揺らしている。
凌牙が何度か首を振ってトーマスと彼の名を呼んだ。
凌牙とトーマス、二人の体は下半身が溶け合うように合わさっている。
白衣から伸びる凌牙の白い素足は、トーマスに突き上げられるたびに膝ががくがくと震えて、地面に爪先をつけているのがやっとだ。

「あーっ、ぁ、っ、あトーマス、、」
「いいぞ、凌牙……はぁっ……いい……ッ」

凌牙の中がそんなに締め付けるのか、トーマスは幾度か背筋を震わせながら呼吸を整えていた。
心拍数が早まっていく。IVにはそれが分かる。

「はっ、うあ……」

勢い余って凌牙の中からずるりと抜け出たトーマスが、今度は凌牙の腕を掴んで仰向けにさせる。
抱え上げてデスクの上へ乗せ、白衣をたくし上げた。
デスクの上に積まれてあった本は全部、床へなぎ払われてバラバラと落ちていく。

「この…野郎……ッ、やめろ!」

凌牙が浮かされた声で反抗している。
細い足がデスクの上で大きく開かされて、泣き声が上がった。
熱烈にキスする二人を、IVはただ眺めていた。再び腰が繋がると、トーマスは先ほどよりも大きく揺さぶり始める。
デスクはかたかたと揺れて、研究室を淫らな空間に変えた。

「IV、部屋へ戻るんだっ」

凌牙はデスクの上で悶えながら叫んでいる。

「IV……っ」
「もういい、見せてやれよ。
どうせこれも情報処理とフィードバックとやらで学習になるんだろ」

IVは完成形でありながら未だに日々のデータ収集で進化を遂げている。
この光景もカメラで全て保存されて、IVの人工知能に蓄積されるだろう。
トーマスはゆらゆらと腰を動かしつつ、心底気持ちよさそうに眉を寄せる。
腰を押し進めるたびに凌牙の締まりを堪能しつつ、下唇を浅く噛み締めた。

「なぁ……凌牙センセ、スクラップくんにティーチングしてんのはあんたなのか?セックスを教えるのも?」
「!!!」
「くっ……ははっ、うらやまし」

さすがの凌牙も、トーマスの囁きに顔色を変えた。
言い返そうとする唇は、わなわなと震えるだけ。これでは経験があると言っているようなものだ。トーマスが笑っている。
想像してしまうではないか。凌牙がIVの前で一枚一枚服を脱いでいく光景を。まだ体の動かし方の分からないアドニスに体を繋ぎ、丁寧に言葉で説明していくさまを。
質問された時は言葉を詰まらせ、恥じらいながらまたぎこちなく説明し、アドニスを導く。

「いいね……!白衣のセンセイが、性教育」

トーマスは目の前の首筋に顔を埋めながら囁く。ますます熱くなったようだ。
未だにくつくつと喉の奥で笑っていた。

「凌牙センセイもフェラしたりすんの、スクラップくんに」
「……やめ……、っもう、喋るな!!!」
「ジーンリッチの天才博士……、俺もティーチングされたい。白衣で」

そうは言っているが、トーマスはすでに相当な経験を積んでいる。
彼はIVと違って、"歯止めがきかない"。むしろ"拍車をかけられている"。
基本的にセックスでも私生活でも、己のサディズムに忠実だ。

「人工精液ってどんな感じだろうな」
「……」
「見たことねぇんだ、俺」

顔をそらそうとする凌牙の顎をつかんで、目と目を合わせる。
トーマスの目は、IVと全く同じであってそうではない。
理性をかなたに置き去りにした、獣のそれだ。

「なぁ、本物欲しい……?」
「……!、、、」
「どうなんだよ……?」

のしかかってくる男に抗えず、凌牙は身を竦ませる。
トーマスの言わんとする事が分かって、目もそらせずにいた。

「俺の聞いた事にはすぐ返事をしろ!!早くッ!!」

激しい音と共にトーマスの怒号が飛んだ。
凌牙の耳、すぐ隣にトーマスの拳が振り下ろされる。

「…………欲しい……」

長い沈黙のあと、すすり泣きとともに凌牙が呟く。
トーマスが凌牙の頬を指先でなぞった。
力なく開かれたままの瞼にかかる髪を、そっとよけてやる。

「センセイ、上に乗って」

そう言われて、凌牙はふらりと起き上がる。
トーマスがデスクの上に座ると、その膝へ乗り上げた。白衣をまくって、トーマスの首に両腕を回す。

「ぁ、奥に……、奥に……出して、くれ」

凌牙の低い声。いつものクールさはどこにもない。返事の変わりにトーマスはその唇を塞ぐ。

「んっぅ!」

凌牙が腰を使いだすと、後ろでどさりと音がした。
IVの手からバスケットが零れ落ちていく。
手作りのベーグルサンドは床へ散らばって、崩れた。

「IV……、」

凌牙が呟いたが、トーマスに抱き締められていて振り向けない。

「こっちを見ろ」

凌牙はトーマスに言われるがままだった。
自ら腰を振って、尻の中に男を受け入れている。
昨夜IVに抱かれた体が、別の男の腕の中で喘いでいた。

「ふっ…ぅう゛っ!はっ……ひふっう……」
「ティーチングは?センセイ」
「し、下から、突いて……、、、ぁっそこを、そこを擦っ……ぁ、っ、あ、っ、
もっ、と!強くっぁっ、」

トーマスをデスクに押し倒し、凌牙は腰の上で身をくねらせている。
肩からずりおちた白衣が、折られた羽根のように背中でたわんでいた。

「ぅくぁ、っ、あ、っ……トーマ、
ここ……、触ってくれ……」

凌牙がトーマスの指を自らの乳首に導いて、膨らんだ乳頭に擦り付ける。
トーマスがそこへ親指を当ててやると、乳頭は押しつぶされて色を変える。
親指に隠れるか隠れないか、ほどよい大きさの乳輪が可愛らしい。

「ひっ」

乳頭の割れ目に爪を当てられて、凌牙は恥ずかしい声を漏らした。

「はぁーっ、ぁ、は、……!
腰、回すなっ……も、イく!」
「この……淫乱」
「ふっぁ、イきたくなっ……イくのは……!こんなので……」

凌牙が髪を振り乱す。
抱えられた足を痙攣させながら、何度も持ち上げられて腰を落とされ、唇まで奪われながら堕ちていく。

「んんっ、ふ、ぅ!……」
「はーっ、出そう、」
「あぁつ、ぁっ、トーマぁ……!!」

ずぶずぶと一際深く繋がったあと、凌牙が背中を大きくしならせた。
トーマスが強く彼を抱き寄せる。
その中で射精しているのがありありと分かるほど、体がこわばった。

「ぁあぁぁッ゛!!出てる、奥……当たってる……!」
「ハァ……は……、女でもこんな敏感に精液の感触わかる奴いないぜ」
「ぁ……、今……、また……!
トーマスの、精子が……」

凌牙はほうと温かい息をつきながら、目を閉じた。本物の精子が、体内で渦を巻く。
ずるりと結合を解いてから、トーマスは凌牙を離した。
凌牙はくたりとデスクに座り込む。

「どけ」

気分が冷めたのだろう。IVに対し、トーマスはひどく不機嫌そうだった。
裸のまま研究室を出る。
シャワールームへ向かったに違いない。
取り残されたのは、デスクに取り残された凌牙と、立ち尽くすIVだけだった。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -