死人に口無し

※遊←凌、W凌表現有り

 キス、セックス、というのは奇妙な行動だ。
 赤い世界と対照的な真っ青のフードを被っている凌牙を観察しながら、そんなことをぼやく。奴は「はぁ?」と分かりやすく眉を顰めた。

 ドルベが有無を言わさず拉致してきた凌牙は、当初こそ「寄るな」「触るな」「元の世界に戻せ」「ついでに俺達の人生も返せ」と喚いていた。別にコイツはナッシュではないのだから、オレとしては遊馬達のところに帰したところでなんら支障はなかった(戦力を多少削げる程度だが、それが引き金となって逆に火をつけてしまった野郎もいたし)のだが、連れ去ってきたドルベ本人が「凌牙はナッシュだ」と言い張り聞き入れないので、恐らくその旨をミザエルかお人好しのギラグ辺りが切々と語って凌牙に聞かせたんだろう。ある日を境に騒ぐことがぱったりなくなった。代わりに同情の眼差しを向けられるようになったが。なんとも物分かりの言いヤツである。
「なんだ、突然」
 深く腰掛けてしまえば足が着かない玉座の上で、奴はパタパタと足を遊ばせる。それが「やることがないからものすごく暇だ」という意思表示だと理解したのはごく最近だ(前に「デュエルでもするか?」と冗談で尋ねたら「デッキをドルベに取り上げられた」と果てしなく拗ねたので、以降デュエルの話はあまりしないようにしている)。
「なんの為にすんだよ、あんなこと」
「あー……世間一般的には、愛情表現?」
 少し間を空けた凌牙の返答は思い切り疑問系だ。っていうかなんだその世間一般的にはって。聞いてるのはこっちだと突っ込んでやろうかとも思ったが、脱線しそうなので止めといてやろう。
「愛情表現っつーことは何か?好意のある奴にすることなのか?」
「まあ、」
「じゃあお前も、遊馬とかとすんのか?」
 ばっと勢いよくオレに振り向き、凌牙は思い切り驚いたような顔をしたが、ややあってくしゃりと顔を歪ませ俯いた。
「……それは、あり得ない」
「あ?なんでだよ」
「俺達は仲間だが、そういうんじゃない。それに遊馬は、俺をそんな風には、思ってない」
「……ふーん?」
 玉座の手すりに腰掛ける。凌牙の拳が緩く握られたのが見えた。

 凌牙と『そーいうこと』をしていた人物がいることを、オレは知っている。一年前、バリアン世界から見世物を観る感覚で、オレはそれを眺めていた。毎度毎度、半ば無理矢理だったその行為は、コイツが言っていた『世間一般的には愛情表現』とは違うような気がする。
 それでも昨日、その男は「凌牙を返せ」と、まるで般若のような凄い剣幕で静かにオレに詰め寄ってきた。
 赤い眼の、十字傷の男。

「そんじゃあ、トーマスだったかぁ?って野郎に感じてるのはそういう愛情なわけか」
「なんであいつの話になる」
「一年前、暇さえありゃ奴に抱かれてたじゃねーか。一時期」
 茶化すようにケタケタ笑って言ってやれば、悲痛だった奴の面がカッと赤くなった。が、怒りを向けられることはない。強く握られた拳から、押さえ込むようにして感情を沈めているのが分かる。
 逆上してくるかと思ったんだが――つまらない。
「それも違う。あれはそんなんじゃない」
 しかもやけに即答。
「あれは……ただの、支配欲だ。あいつは俺が好きであんなことをしたんじゃない。人形を独り占めしたいガキと同じだ」
「じゃあテメェは誰とならしてぇんだ?そういうこと」
「誰ともしたくない」
 きっぱりと言い放った凌牙の声は自嘲にも聞こえた。
「――つーことは、だ。テメェは愛情表現だと思ってねぇわけだよなぁ?」
 そんなん、あんなこと。コイツの言葉はその行為を怪訝するような言葉があった。
 ああ、と凌牙が頷く。傍らにいるオレには目もくれず、どこか遠いところを見ていた。
「俺にとってそれは、ただ虚しさを埋める手段に過ぎない。愛だの恋だのとは、ほど遠いもんだ」
 その表情が少しだけナッシュに重なった。
「――じゃあよ、オレがテメェにしても、何ら問題ないわけだ」
「できるもんならやってみろよ」
 言われてみればそうだ。バリアン態である今は人間のように性器など持ち合わせていない。そんな必要がないからだ。
「んじゃあ、こっちで」
 人間ならば口があるだろう部分で凌牙の頬に降れる。じわり、と人間の体温をその部分に感じる。
「まあ、俺らには口もねぇけど」
「……死人に口無しって言うしな」
「それは俺らが元々人間だったら、の話だろ?」
「−−ベクター!」
 名を呼ばれて振り向けば、溢れんばかりの殺気を纏っているドルべと目が合う。どうやらタイミング悪く見られたらしい。
「ナッシュに何をしている!!」
「まあまあ、そう怒りなさんな。だーいすきなお仲間と引き離された可哀想な凌牙くんの寂しさを埋めてやろーと、二人で人間流のスキンシップして遊んでただけだぜ?」
「そんなことをしている暇はないだろう…!」
「羨ましいならテメェもやりゃあいいじゃねぇか。なァ?」
 いくらでもさせてくれるぜ?暇つぶしだし。そう付け加えるとドルべが更に怒りを露わにした。ナッシュのこととなると、煽れば煽るほど表情を歪めるコイツは、本当に見ていて飽きない。
「ま、遊馬達のところに返してくれるってんなら、考えてもいいぜ」
 余裕の表情で言い切った凌牙に、ケタケタ笑う。馬鹿らしくなったのか、ようやく凌牙もわずかに笑みを浮かべた。優しくなった目元は、やはり少し似ている。
「……やっぱお前、ナッシュなんじゃねぇの?」
「お前等いい加減うぜぇぜ」

13.6.12

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