Beyond


未来パロ/W凌だけど本人達は出てこない


 数学の課題を解きながら、遊馬は溜め息を吐いた。後ろのテーブルで同じように課題に取り組んでいたVが、「遊馬?」と首を傾げる。
「どうしたの?また詰まった?」
「あー……うん、ちょっと」
「――全然進んでないじゃないかぁ」
 「僕たちもうすぐ受験生なんだよ?」と困った表情のVに、遊馬は生返事を返すばかりで、流石の彼も次第に「聞いてるの?」と眉間に皺を寄せた。

 アストラルはもういない。自分の世界へ戻っていった。ナンバーズ回収のために危険なことをする必要も、もうない。遊馬のデュエルは友人らと強さを競い合いながら、仲間を増やし繋がりを増やすという元の形を取り戻した。
 カイトは弟のハルトを連れてハートランドを後にし、稀に連絡を寄越してくる。――そういえばゴーシュに聞いた話だが、どうやらカイトはドロワを振ってしまったらしい。気持ちだけ、受け取ると。
 アークライトの家族はハートランドに留まっている。Xは以前と同じように父親であるバイロンの研究を手伝っており、Vは年上ではあるものの、それまでの経緯を考慮して遊馬達と同学年に籍を置き、学校に通っていた。
 それぞれがそれぞれの幸せを取り戻している。

「…全然、幸せじゃねぇじゃん」
 唯一の、憂いを除いて。
「遊馬…?」
「せっかく幸せなのに幸せじゃねぇ」
「それは…W兄様と凌牙のこと?」
「…………」
 寂しそうに彼らの名前を口にしたV。遊馬は暗黙のうちにそれを肯定した。

 遊馬にとっての皇の鍵のような媒介物を持たない凌牙は、その命とナンバーズとが直接的に結びつき、内側から食い尽くされて、全てが終わった時には身も心もボロボロになってしまっていた。――妹がいるのに。妹が入院生活を終えて自宅療養になるのだと、春になれば学校にも通えるようになるのだとあんなに喜んでいたのに。
 そんな状態になってしまった凌牙に、Wは謝罪を繰り返していた。こうなってしまったのは自分の責任だと。無関係だった兄妹を巻き込んだのは自分だと。
 そして「凌牙の面倒は俺が見る」と言ったきり、Wは凌牙を連れて行方を眩ませてしまった。アジアチャンピオンとして有名だった彼の失踪は、暫くの間様々なメディアで取り上げられていたが、Wの父親であるバイロンも凌牙の妹も、2人の行方を探そうとはしなかった。

――行方を知っているのは、恐らく2人に手を貸したカイトだけ。

「お前の父ちゃんもシャークの家族も……なんで探さねぇんだ」
「きっと……2人はそれを望まないから、だと思う」
「心配じゃねぇのかよ」
「だけど兄様も凌牙も、頑張ったから」
 父親の為、それが自分の役目だと汚れ役に徹してくれたから。
 妹の為、託された思いの為に、命懸けで戦ってくれたから。
「だからもう、誰も知らない静かで温かい場所で…幸せになっても良いんだよ」
「…………」
「僕達だって兄様や凌牙に会えないのが寂しくないわけじゃないけど……でも此処に居たら、きっとまた頑張らせてしまうもの」
 あの2人は頑張ったから。人一倍頑張ったから。もう、良いんだ。
「あの2人はもう頑張らなくて良い場所に行ったんだよ――そういえばカイトから、島買って暮らしてるらしいって聞いたなぁ」
「しまぁ!?」
「凌牙は兄妹でお祖父さんの遺産をまるっと相続したからお金持ちだし、W兄様はチャンピオン時代に稼ぎまくってたからね。だから食い扶持には困ってないみたいだぞーって」
 くすくすとVが笑う。今度手紙を書こう。そうしてカイトに手渡してもらうのだ。

愛の隠居生活はいかがですか?って。


20120606


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カイトが2人に荷担したのは、実はW凌←カイだから。そして実はほんのりW←Vだったり。

2人のところには天城兄弟だけが出入りしてる。凌牙がWと結ばれることになっても、今でも凌牙を想い続けていつでも力になれるカイトさんマジ漢。




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