サファイア少年の願い事
天体観測シリーズ/良い子はちゃんと専用眼鏡を使いましょう
絶好のスポット。そう言われてカイトに連れて来られた川べりで黒い下敷きを翳しながら、凌牙は欠け始めた太陽を眺めた。
「ハルト、ちゃんと休息入れるんだぞ」
「うん、大丈夫」
「初めて見るんだ」とハルトがはしゃぐものだから、目を痛めないようにと心配するカイトとのやりとりを隣で聞いている凌牙の口元には小さな笑みが浮かぶ。なんとも愛らしい。
「凄い。ホントに段々欠けてくんだね」
「流星群より珍しいし、地域によって見られる形が違うから……ハルト、もしかしたら願い事もこっちの方が叶えてくれたりするかもしれないぞ」
「日蝕に願い事なんざ聞いたことねぇぞ」
無理矢理な理論だな、ロマンチストめ。
このブラコン兄が実は自分なんかよりずっとロマンチストだと凌牙が知ったのは、ごく最近のことである。
「試す価値はあるだろう?」
「責任とらねぇからな、ブラコン」
笑顔を輝かせたハルトに、凌牙がカイトへ向かい溜め息を吐いて見せる。月蝕やら彗星やらならまだしも、日蝕に願い事なんて。
カイトに乗せられてハルトは祈るように手を合わせている。一生懸命で、可愛い。
「何をお願いしたんだ?」
「ないしょー。兄さんは?」
「じゃあ俺も内緒」
「ずるいよぉ」とハルトが膨れる。仲睦まじい2人に「どうせハルトのことだろ?」と凌牙が茶化せばカイトは目を丸くした。
「何故分かったんだ……エスパーか!」
「テメェ一度自分のこと客観的に見てみろよ」
「ね、凌牙さんは?凌牙さんは何をお願いした?」
驚愕し続けるカイトを他所に、ハルトが凌牙の服の裾(というかズボン)を掴んで尋ねる。
「何にも」
「お願い事、ないの?」
「残念だが、ねぇな」
「夢のない奴め」
カイトが茶々を入れてくる。凌牙は腰を下ろしてハルトを膝に乗せると、「バーカ」と笑って見せた。
「今が一番幸せだから、願い事なんかねぇよ」
20120525