始まりからの逃走


遊→凌/最初にチラリズム情事表現



 昨夜の話だ。遊馬は凌牙を無理矢理抱いた。姉も祖母もいない日で、騒ごうが何をしようが誰にも咎められることはない。そんな状態で、遊馬は凌牙を抱いた。
 やめろ、と泣き喚いて嫌がりながらも、やってくる快感に耐えきれなかったのか喘ぐ凌牙の姿は発育途中ということもあり、到底男とは思えないほど綺麗で扇情的で。
 遊馬はそれを見て余計に欲情していた。


 目覚めたのは時計の針が12時を回った頃。昨夜は凌牙が意識を飛ばすまで抱いたのだから、身体の疲労も相当だろうと彼の様子を伺うために遊馬は上半身を起こした。
「…あれ?」
 夕べは、彼を抱きしめたまま眠った。頭1つ分くらい自分より背の高い彼だったが、身体は驚くほど華奢で。遊馬は散々抱いた後、今更ながら凌牙の身体を労るようにして出来るだけ優しく抱き寄せて眠ったのだが…肝心の凌牙は姿を見せない。
 強引に脱がせた衣類も、彼が持ってきていたデッキケースもない。まさか帰ってしまったのだろうか?と不安になる遊馬の後ろで、代わりに皇の鍵からアストラルが姿を見せる。
『遊馬。シャークならば先程目を覚まして「腹が減ったからコンビニ行ってくる」と出かけて行ったが』
「コンビニ?帰ったのか?」
『いや、戻ってくると言っていた』

 ガチャ、と玄関が開く音がする。話をすれば戻ってきたらしい。遊馬は起き上がって凌牙のところへ行こうとしたが、どんな顔で彼を見たら良いのか分からず立ち止まった。
『下に行かないのか?』
「いや…行くけどさ」
 起きてきた自分を見て、凌牙はどんな顔をするだろう。怯えるだろうか。それとも怒るだろうか。
 どうだとしても自業自得だ。意を決して遊馬は階段を降りると、凌牙のいるダイニングへ足を向ける。
「――起きたか。コンビニで昼飯買ってきたぜ」
「あ、ああ!腹減ってたんだ。さんきゅー」
 渡されたのはコンビニで売られている弁当だった。凌牙は既におにぎり(明太子)を口に運んでいる。明らかに自分が渡された食事の量より少ないが、「普段からそんなに食わねぇし」と苦笑されてしまう。
「シャーク、あのさ」
「なんだ」
「その…身体、は…痛くねぇの?」
 おずおずと尋ねれば凌牙は僅かに顔を歪ませる。
「痛くねぇ…わけねぇだろうが。猿みたいにがっつきやがって」
「さっ…!?猿ってのは失礼じゃんか!!」
「事実だろ。お前が、俺が嫌がるのも御構い無しでやりたい放題だったのは」
 言葉は鋭利なナイフのように遊馬に刺さる。だが、不思議なことに凌牙自身からは何も感じなかった。
 怒っていると思っていたのに。凌牙は何も変わらずいつも通りの調子でいる。
「俺……お前のこと、好きだ」
 昨夜、凌牙を抱きながら何度も言った言葉を、もう一度彼に言う。真っ直ぐ前を見て。彼を見て。
「……正直、全然気がついてなかったから」
 驚いた、と微笑さえ浮かべる彼の表情はとても綺麗だ。いつも彼は綺麗だが、いつもより綺麗だと遊馬は思う。
「抱かれたのはショックだったが…気持ちは、嬉しかった。本当に」
「シャーク、」
 本心に違いない。これが紛れもなく彼の本心だと断言できるのは、遊馬が凌牙という人間のことを、全てでなくとも理解してるからで。凌牙もまた遊馬という人間を、全てでなくても理解しているからだった。
「だが気持ちには応えられない」
「…なんで?」
「それは、」
 凌牙は口を噤んでしまう。
「好きな奴、いんのか?」
「………」
「教えてくれよ――じゃないと俺も納得できない」
 中途半端な気持ちで「好き」を伝えたわけではないのだ。気持ちに応えてくれないなら、せめて理由が聞きたい。筋は通っている、はず。
 遊馬は自分を見ようとしない凌牙の肩を掴む。凌牙は一瞬、怯えたように身を固くした。それが遊馬を傷つける。
「シャーク」
「――好きな奴がいる。お前の他に」
「俺も知ってる奴?」
「ああ」
 お前もよく知ってる奴。凌牙は尚も遊馬を見ずに呟くように言った。
 彼が泣きそうなことに気がついても、遊馬は問うことを止めない。
「誰なんだ?」
「言えねぇ」
「なんで?」
「言いたくない」
「なんでだよ?」
 拒絶されているのは分かっている。自分は彼に「これ以上、中に入るな」と言われんばかりに拒まれているのだ。
だが遊馬も素直に諦められるほどの軽い気持ちではない。引き下がりたくはなかった。
「なんで…知られて困る相手なのか?」
「言わないって決めてんだ」
 凌牙が漸く遊馬を見る。
「誰にも言わないで、墓まで持っていく」
 今まで見たこともないぐらい穏やかで、その何十倍もの痛みを秘めた蒼の瞳に、遊馬は開きかけた口から言葉を発することが出来なくなってしまった。
「悪い…ごめんな」
 その謝罪は誰に向けたものなのか。自分か、好きだと言う相手か?それとも凌牙自身に向けてなのだろうか?
 2人して黙り込んでしまった昼下がり。遊馬はもう「何故?」とは聞かなかった。




(ごめんね。受け入れられなくて)
(ごめんね。伝えられなくて)
(ごめんね――でも、いつか壊れてしまうのが酷く恐ろしいんだ)



20120430


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実はW→←凌だったりする。







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