02

誠凜と黒子



入学して、仮入部して、僕は帝光に入学した当時の僕を再現していた。
光になるでもなく、ただただバスケが好きな高校生。
強豪校で鮮烈な光に隠れた、そんな人生を歩んできたかのように。
実際の所、赤司くんによって、試合に出ざるを得なくなり、いつの間にか一軍、しかもレギュラーになっていたのだけれど、それは伏せさせていただいた。
カントクの眼に僕は特異として映らないようだったのが、一番の誤算であるが、それは嬉しい誤算だ。
同輩といえば、火神くんはキセキ候補と言っていいだろう。
赤司くんが居れば、間違いなく確証を得れるが、今ここに赤司くんはいない。
彼は当初の予定通り、洛山の推薦を受け京都だ。


「順調過ぎてツマラナイかもしれませんね、赤司くん」


誰も居なくなった部室で呟いて、一つ大きく息を吸って吐き出してから、練習の為、部室を出た。


「一年と二年の紅白戦…」


雨でロードが削れた分、補われたそれ。
他の同輩は皆様一様に騒いでいるので、僕の声は拾われることはなかった。
拾われて困る内容でもないが。
二年生の実力はそれなりに把握している。
ただ、あれから負けた後、どれ程まで成長したかが知りたかったし、ちょうどいい。
それに、キセキ候補である火神くんの実力も気になる所ではある。


「そうなりますよね、普通は」


赤司くん、やっぱりキセキ同様馬鹿が多くて困ります。
いえ、君も馬鹿の一人なんですが。
気配を零に近付けて、コート内で試合を傍観していた僕は内心で呟く。
火神くんの実力がキセキ候補足りうるものであるのは確定だ。
だけど、やはり、キセキ同様独りよがりなプレイは感心出来ない。
あれは、そうだ、僕の大嫌いな青峰くんと同タイプだ。
やっと離れたのに、まさかこのタイプに出会うとは。
流石にスティールするようなことはなかったけど、まぁあまり活躍もしていないし、僕の影としてのプレイは一切していないに等しい。
そろそろ、潮時か。
諦めた発言をする同輩に怒鳴る火神くんの膝に軽く蹴りを入れて、膝かっくんさせた。


「落ち着いてください」


怒りに染まった目がこちらを向く。
その目を放置し、怒鳴られていた方の同輩に目を向ける。
手首の具合を確かめる。


「すみませんが、適当にパスをください」


それだけ言って、試合再開の為に歩く。
昔、コートは僕の領域だと赤司くんに言われたことを思い出した。
確かに間違いじゃない。
回ってきたボールをフリーになっている人間を瞬時に把握して、すぐに回す。
はじめて対戦してミスディレクションを見抜ける程、先輩達の目は良くない。
つくづく木吉さんが居なくて良かったと思ってしまった。
彼は僕のミスディレクションを知っているから、困る。
気付けば、一点差。
中継役にも試合にも飽きた所で、フリーの状態でパスを受けた。
帝光時代の黒子テツヤはレイアップが苦手だった。
いや、シュート全般に。
それを心得て、わざとレイアップを外す。
いつも思うが、普通なら入るものを外すこれは意外と難しい。


「ちゃんと決めろよ」


リバウンドボールを火神くんがダンクで決めた。
それでいい。
影を認識させる事が目的なのだから。


「キセキの世代ってのはどんくらい強ーんだよ?」


帰りがけ、マジバで遭遇した火神くんの質問に答えた。
今の君では瞬殺される、と。
まだキセキ候補ではダメだ。
それは同等ではない。


「日本一になる」


その高らかな宣言に口端が上がる。
それはムリだ。
赤司くんが、僕が居る限り、日本一なんてムリだ。
そう思いながら、真っ直ぐに火神くんの目を見据える。


「助力くらいはしましょう」


君の影にはならない。
それが僕の結論だ。
火神くんと別れ、星の瞬く空を見上げる。


「前言撤回。面白くなりそうですよ、赤司くん」



影の決定
(影は人知れず笑う)
write by 99/2012/05/04




黒子独白は赤司にめっちゃ語りかける。
基本的に赤司が理解者という位置なので仕方ないんですが。
鼠猫の黒子は残念ながら火神の影にはなりません。





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