7月7日の奇跡 パラレルで緑間誕 高校生緑間×?黒子 友情出演:高尾 「あっれー?真ちゃん、どっか寄んの?」 「そうなのだよ」 「あっそ。んじゃまた明日なー」 「ああ」 いつも通りにテーピングをした左手を軽く挙げ挨拶すると、緑間は高尾に背を向け歩き出す。 誕生日といえど、緑間の行動は間違いなくいつも通りだった。 神経質なほど念入りに巻かれたテーピングをした手には今日のおは朝のラッキーアイテム、極めつけは今日も今日とて一度たりとも外さない3P。 そのいつも通りの一日に隠された溜息を知るのは本人だけだ。 夕焼けに朱く染まった神社の裏手、都内にしては自然の多いそこは森と呼ばれるに相応しいほど、木々が生い茂っていた。 森を抜けた先、その屋敷はあった。 屋敷といって差し障りはないだろう大きな洋館の呼び鈴は鳴らさず、慣れた様子で緑間はその屋敷に足を踏み入れた。 「やはり、いないか…」 口をついてでたのは、溜息。 やけに豪奢なマットが敷かれた階段で2階に上がる。 廊下の窓から見える空はどんよりと曇り今にも雨が降り出しそうだった。 七夕に晴れる日が少ないのは通例である。 したがって、緑間は誕生日に晴れていた記憶など少ない。 「緑間くん」 小さな小さな声が緑間の耳に届いた瞬間、ピカリと空が光り雷鳴が轟き、土砂降りの雨が降り出した。 緑間の目の前には、いつの間に現れたのか儚い印象さえ与える水色の少年。 「黒子」 「すみません、なかなかお会い出来なくて」 「いや、こっちが勝手に来ていただけなのだよ」 沢山並んだドアの一つ、開いたままだったその部屋に入った緑間は窓際に置かれた椅子に座った。 黒子は緑間と向かい合うように開いたままの扉の横に立つ。 二人はそのまま他愛もない話に花を咲かせ、静かに笑い合う。 そんな静かで穏やかな時間を緑間は気に入っていた。 二人の会話の間、外では空が唸り声を上げ雷が地響きを起こしていたが、そんなものは気になりはしない。 「黒子、」 言ってはいけないとわかっていた。 緑間が学校に居る間、黒子は何をしているのだとか、どうしてこの屋敷に一人で住んでいるのだとか、家族はどうしているのだとか、黒子自身の事だとか、沢山聞きたいことはあった。 それでも、黒子が自ら言わない限り、それに触れてはならないのだと、緑間は理解していた。 「緑間くん!」 「っ」 黒子に呼ばれ、緑間は自分が口走りそうになった言葉を飲み込んだ。 言ってはならない。 それを口にしたが最後、黒子には二度と会えない。 そんな予感が緑間にはあった。 「緑間くん、すみません。本当に、僕は…」 「何も言うのではないのだよ」 謝る必要などないと黒子に言い聞かせる。 その度に黒子が苦しそうに笑う。 いつの間にか、雷鳴は遠退き、曇り空からは光が射していた。 音もなく黒子は緑間に歩み寄る。 座ったまま黒子を見上げた緑間は息を飲む。 「緑間くん、お誕生日おめでとうございます」 今までない程に近い距離。 手が届くその位置にいた黒子は逆光になっていたが、確かに笑った。 穏やかで綺麗な緑間が好きな笑顔で。 「黒子っ」 思わず伸ばした緑間の手は空を切り、黒子の姿が消えた。 そこに誰も居なかったように、掻き消えた。 光が射した部屋の中、今まで黄が付かなかったのが嘘のように、少し埃っぽい空気が緑間の鼻を擽る。 「すまなかったのだよ」 黒子、と言葉は続かなかった。 唐突に思い出し、理解してしまったから。 黒子が、黒子テツヤがどういうものであるかを。 彼は、緑間が中学の頃の同級生だった。 クラスは違ったものの、同じ部活だった。 緑間が黒子を語るならば、いや、緑間でなく彼を知る物ならば、全て過去形で語る事になる。 そう、黒子は中学最後の全中の帰り道、仲間達の目の前で車に轢かれて死んだのだ。 忘れたわけではなかったのに、今唐突に理解した。 意識的に、無意識に、黒子についての記憶が消えていた。 「まったく、まるでお前のミスディレクションのようなのだよ」 屋敷を出て振り向けば、そこは先程までの屋敷と同じものとは思えない程に古び朽ちていた。 「化けて出る程、悔いてくれたのか、お前は」 黒子が緑間の誕生日を知った時、既に誕生日は過ぎていて、来年は祝いますからと黒子は言ったのだ。 本来なら、その来年は来ることがなかった。 「明日の蟹座は一位な気がするのだよ」 緑間が見上げた夜空には確かに天の川が煌々と輝いていた。 7月7日の奇跡(「約束は果たしましたよ、緑間くん」)write by 99/2012/7/7 仕事帰りに空を見たら、天の川が見えてビックリしました。 何年ぶり?的な。 黒子が幽霊なネタは完全に某幽霊〜なボカロの影響です。 というか、初緑黒がある意味悲恋て…。 緑間難しい…。 |