06

木吉と黒子



早いもので気付けばゴールデンウイークなどとっくに過ぎ、インターハイの予選が始まった。
僕はといえば、相変わらずで、それなりに高校生ライフというやつを楽しんでいる。
インターハイ予選の開始日が主将の誕生日と重なり、カントクや先輩達の発案で予選初戦突破記念と共にお祝いをしたのは記憶に新しい。
お祝い中も初戦の相手を思い出し、苛立ってしまっていたのは物凄く申し訳ないと今更ながらに思う。
まぁ普段から無表情が標準装備の僕だから気付かれてはいないだろうけれど。
思い出してしまった苛立ちを胸の内に抑えながら、病院独特の匂いを吸い込み、コツコツと靴音を鳴らして、リノリウムの廊下を闊歩する。
擦れ違う何度か顔を合わせた看護師は僕に気付く事なく、忙しなく去っていった。
慣れた道順を辿り、大部屋へと入れば、平均年齢の高い集団の中、大きな身体でそれに加わるその人を見て、普段の無表情が少しばかり緩む。


「元気そうですね、木吉さん」


僕の声にその人が振り向き、


「お!来たな、黒子」


笑った。
自分のベッドに戻るのかと思えば、松葉杖を持った木吉さんはそのまま自分のベッドを通り過ぎ、廊下に向かう。


「何処に行くんですか?」

「中庭」

「あの、それ、車椅子にしません?」

「リハビリリハビリ」


そう笑われてはもう何も言えなかった。
ゆっくりと壁伝いに進む木吉さんの二歩後ろを歩く。


「バスケ部どうだー?」

「楽しいですよ、それなりに」

「そうか。こないだは大活躍だったって?」


ベンチに座った木吉さんの隣に僕も座った。


「新協戦ですか」

「黒子がキレてたってあいつらがな」


まだ会わした事もない人に対して話す話ではないだろうに、あの先輩達は間違いなくメールでその話をしたのだろう。
カントクは直接病院に来たのかもしれないが。


「ムカつきましたよ、正直。彼等の何も知らないくせに」

「何だかんだ言って、黒子はアイツらが好きだからな」


好き、なのだろうか。
僕は彼等に本当の事を何一つとして知らせなかった。
そのくせ、彼等の全てを肯定も否定もせずに黙認し、離れた。


「あんまり難しく考えるなよ」


ポスッと頭に乗せられた大きな手に感じたのは安心感で、やっぱり僕の選択は間違いじゃなかったと思う。


「もう、インターハイですね」

「そうだな」

「インターハイで誠凛が勝ち上がれば、僕は彼等に居場所を知られる事になります。むしろ、もう知られている可能性が高いんですが」

「黒子次第か」

「はい」


自分次第なのだ。
光となるか、影に徹するか。
結局は自分で決めなければならない。
それでも、木吉さんの元に来たのは、彼が光候補だからだろう。
バスケを好きで楽しむ事に重点を置く彼だから、こそ。


「聞き流しても構わんが、俺は黒子と並びたいと思うぞ」

「え?」

「俺の影に隠すより、俺は並びたい」


あぁこの人の言葉は真っ直ぐ過ぎて嫌になる。
それでも、思い出すのは、この人とはじめて会話した日の事だ。
貫き通した意思は、いまだこの胸にある。


「楽しみにしています。木吉さんが復帰してくるの」

「あぁ」




真っ直ぐ貫き通す意思
(彼とバスケがしたい)
write by 99/2012/07/04





フライングで木吉登場でございます。
そして、なんと!赤司様が不在!
木黒といいつつ、赤司くん赤司くんと赤司様にばかり語りかけてた黒子さんが木吉さんに会ってデレました←
で、前回…(だと思う)に新協戦書かなきゃ進まないって話したのに、完全にスパッと抜けた。
時間軸的に新協戦と次の試合の間です。
キセキたいしたことないじゃん発言にお怒りです、この黒子さん。
だから、好きだからなに繋がる、と。





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