05 黄瀬と黒子 少食であることをカントクに伝えていて良かったと思う。 カントクと一緒に青い顔をしながらステーキを頬張る先輩方を傍観しているだけで、気持ち悪くなった。 脂の匂いは昔から苦手だから、仕方ない。 風に当たるとカントクに告げて店を出た僕を待っていたのは、ガードレールに座る黄瀬くんだった。 待ち伏せとか、一瞬ストーカーかと思いましたとは、流石に黄瀬くんが可哀相な気がして、言わなかった。 でも、そう思った僕は間違ってないと思うんですが、どうですかね?赤司くん。 「ちょっと話さねぇスか…黒子っち」 「…………はい」 笑顔の駄目押しに負けた訳じゃない。 決して、負けた訳じゃない。 黄瀬くんの背中を見ながら、歩く。 中学時代はよく見慣れた背中だったのに、彼が纏う制服の所為か、どこか落ち着かなかった。 「緑間っちに会ったッスよ」 「正直、緑間くんと僕は合いませんから」 「けどあの左手はハンパねースよ、ジッサイ。かに座がいい日は特に」 「………黄瀬くん、実際って漢字で書けますか?」 話が脱線するのは承知の上だが、気になって仕方なかったので、しょうがない。 「あーっと、高校生活初っ端から散々ッスわ。黒子っちにフラれ、試合には負け。結構、本気だったんスよ」 「はい」 今、明らかに目を逸らして、スルーしましたね。 絶対、書けないんだ。 「なんで、俺達に進路隠してまで誠凛に行ったんスか?」 居場所がバレれば、絶対に聞かれると分かっていた質問だった。 「黄瀬くんに聞きたかった事があります。君が、僕にそこまで執着するのは青峰くんが原因ですか?」 「違うよ」 即答。 何故か、黄瀬くんが辛そうな表情をしていた。 仮初とはいえ、僕の光だった青峰くんに憧れていた黄瀬くんだからこそ、そうなのだと思っていたのだけれど、即答で否定されるとは思っていなかった。 「俺、馬鹿ッスけど、黒子っちのことは他より分かってるつもりッスよ。確かに青峰っちには憧れてる。でも、黒子っちに傍に居て欲しいって思うのと、青峰っちは関係ない。そりゃ、黒子っちが傍に居たら青峰っちや他のキセキに自慢したいと思うとは思うッスけど」 頬を掻きながら、でも、黄瀬くんは決して目を逸らさなかった。 やっぱり、彼らを離した意味はあったのかもしれない。 全員が全員、別々の高校に行く必要はなかった。 それでも、そうなったのは、僕がそう願い、赤司くんが実行に移したから。 「黄瀬くん、君は赤司くんに何を言われたんですか?」 一人一人に渡されたメッセージ。 作ったのは僕だけれど、それを配ったのは赤司くんだ。 誰に何を渡すかは全て赤司くんに託した。 「赤司っちに、スか。『憧憬に不敗あらず。信じ抜く事道は拓かれん』ッスね」 あぁやっぱり、それが君に渡りましたか。 「黄瀬くん、その意味をI・Hまでに調べておいた方がいいですよ。君の事ですから、意味も分かってないでしょうし」 「黒子っち、結局、俺の質問に答えてくれないんスか?」 「あぁ忘れてました。誠凛だった理由でしたね。キセキ、特に青峰くんから離れられるなら、何処だって良かったんです。ただ、最終的に誠凛を選んだのは、ここに居る人に会ってみたかったんでしょうね」 彼と同じチームで戦ってみたかった。 彼の影になることも考える程に、二度目に彼を見たあの試合は僕にとって衝撃だったのだ。 「誰ッスか?黒子っちにそこまで言わせるって」 「内緒です」 「はー。黒子っちが海常に来てくれたら嬉しいッスけど、そっちはまぁいいッス。でも、黒子っちのことは諦めないッスよ」 そう言って笑った黄瀬くんがまだキセキと呼ばれる前の彼に被った。 黄瀬くんと別れ、振り返った先で不愉快なものを目にし、八つ当たり同然のストレス発散をしたのは、僕だけの秘密だ。 黄昏時は懐古を誘う(1on5だなんて、なんて戯言)write by 99/2012/05/23 1on5でも不良に勝っちゃうんですよ、鼠猫黒子は。 黄→黒な雰囲気でお送りしました05です。 火神の影じゃないを前提に置いているので火神の出番がとことん削られた…。 き、嫌いじゃないんだよっ火神! 色々含む所ばかりな黒子ですが、これ、最強連載じゃなくて、黒子と赤司の黒幕連載なんじゃ…って思う今日この頃。 でも最強連載と言い張ります。 ← → |