蝶に恋した蜘蛛の事


目の前の人物は何かに夢中のようで、先程から僕の存在を無視して窓の外を見つめてばかりいる。
僕はといえば、そんな綱吉くんの態度をものともせずに本を読んでいるのですが、さすがにそろそろ会話というものをするべきか悩んでいた。


「綱吉くん、さっきから何を見ているんですか?」

「蜘蛛」


省エネされたような答えに一瞬自分の顔が崩れた気がする。
確かに綱吉くんが見つめる先には、蜘蛛の巣があり、一心不乱に蜘蛛が糸を紡いでいる。


「骸」


やっと、こちらを見た綱吉くんが僕の名前を紡ぐ。


「あの糸はさ、餌を捕える為のものなんだよね」


あんなに一心に紡いでいる糸は己が生存する為の餌を確保する為のものである。
それは肉食である人間が動物を捕まえる為に罠を仕掛けるのと同じだ。
ズル賢く、悪い考え。


「どうしたんですか?」

「いやさ、あれがもし、好きで好きで堪らない虫を捕える為だったら、健気だなぁって思ってさ」


なんてロマンチストなんでしょうか、この人は。


「捕らえられる蝶こそ、蜘蛛に恋い焦がれてるのかもしれませんよ」


ロマンチストな台詞を吐いた綱吉くんに合わせて、スラスラと出てきたドリーマーな僕の台詞に、綱吉くんは驚いたという目をこちらに向けていた。


「驚いた」


でしょうね、その顔は。
とは、言わずに、肩を竦める。


「一蹴するか、鼻で笑うかだと思ってた」

「失礼ですね」


面と向かって言う台詞ではないだろう。
良くも悪くも綱吉くんは嘘が吐けないというか、正直だ…自分に。


「で、何の話だっけ?」

「忘れたんですか…」


呆れたような視線を向けるが、たいして気にした様子もなく、綱吉くんは握ったままだったコントローラーをしっかりと握り直し、画面に視線を向けた。


「蝶に恋した蜘蛛の話ですよ」


ぽつりと言えば、電源を入れられオープニング映像の始まった画面に向かっていた綱吉くんが、


「なんか言った?」


と、僕に振り向いた。


「何も」


小さく横に首を振り、綱吉くんが先程まで見つめていた蜘蛛に視線を移す。
綱吉くんは既にゲームに夢中だ。


「恋情なんて、そんなに綺麗な感情ではないですけどね」


巣に引っ掛かった蝶がもがいていた。
蝶こそが恋情を抱いているのか、蜘蛛が恋情を抱いているのか。
果たして、どちらが、罠にかかったのか。





蝶はヒラヒラと己を魅せ舞い歌う

蜘蛛は蝶に恋い焦がれ

想いを糸に紡ぎだす

果たして

どちらが

先に墜ちたのだろうか



蝶に恋した蜘蛛の事
written by SHIKI,2007/09/06
お題⇒アコオール≫オーエス



6927と言い張りたい。
実際、69+27ですね…はい。
蜘蛛と蝶の話は昔に他ジャンルで書いた覚えがあります。
真っ黒な性格で蜘蛛と毒蝶の話を。
罠を仕掛ける蜘蛛と、罠に捕まったフリをして毒をもった蝶。
この時は、蜘蛛が受子だったなぁ…。





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