神になった贄の気持ちは


その教会には毎日同じ時間に、1人の青年が通っていた。
青年は祈りを捧げるわけでもなく、並んだ木製の椅子座りただイエスの貼りつけられた十字架を眺めるのだ。
毎日、毎日、青年は繰り返す。


「で、何しに来たんですか」


諦めにも似た嘆息が、青年の口から漏れた。
座る青年の背を見つめるように、結婚式ではヴァージンロードと称されるそこに黒を纏う男が佇んんでいた。


「なにを考えているんですか…?」


黒の男は結われた長い髪を揺らし、青年に近付いた。
青年は振り向くことなく、十字架を見つめる。


「骸には、理解されないかもね」

「弔いのつもりですか?」


骸と呼ばれた黒の男が、嘲笑を浮かべる。
申し訳程度に結ばれたネクタイが揺れた。


「神がいると思う?」

「さぁ?」


六道を巡り、繰り返す人生の中で、骸は神に縋り救われることなく散った命を幾つも見てきた。
しかし、断言はしない。
神の存在を決めるのは、他人ではなく、自身だと知っているからだ。


「はは」


青年が笑った。
渇いた笑いに、骸が顔を顰める。
それに気付いたのか、青年が立ち上がった。


「帰ろうか」

「もういいんですか」


骸が来てから、10分くらいしか経っていない。
青年はその前から居たのだが、骸は青年が屋敷を出るのを見てから、後を追ったのだから、少なくとも、そんなに居たわけではないだろう。
そうであるのに、帰ろうとする青年に対し、骸は首を傾げた。


「骸」


ツカツカと歩き唯一の扉を開け、青年は骸の名を呼んだ。
薄暗い教会内に、光が射す。
骸は眩しさに思わず目を細めた。


「そこにいるのは、なんなんだろうね」


自嘲気味に呟かれた言葉に、骸はなんとはなしに振り向き、奉られるように飾られた十字架を見上げる。


「神様、でしょう」


皮肉げに骸の口元が歪む。


「貼りつけられたのは神なんかじゃない、生け贄だよ」


それに骸が青年を顧みた時には、青年は外に出た後だった。
光だけが、扉から入ってくる。


「君はどんな思いでこれを見ていたんですか…?綱吉くん」


ぽつり、彼を想い、骸は呟く。
声は空気に溶けて散った。





貼りつけられたのは

神様か

生け贄か

それとも、己か。



神になった贄の気持ちは
written by SHIKI,2007/11/8




弔いの気持ちなんかじゃなく、ただ単に静かな場所を求めて教会に通う綱吉の話。
迎えにきた骸さんは、綱吉が心配だったんです。
どうしても本編要素を入れたかったんだよ、と言ってみる。
ただ妄想で済むような要素で申し訳ない(苦笑)
別に私はキリスト教否定者じゃないですよー。
むしろ、聖書とか読むのは好きな方。
幼稚園はキリスト教で、最近入院してた病院もキリスト教でした(笑)




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