枯渇した涙の行方


呆然と焼け野原にも似た荒地を見つめていた目は、一向に涙を流そうとしなかった。
琥珀よりも少し濃い橙は、哀しげに揺れているのに、涙は流れない。
何故だろうと、見つめるが、やっぱり彼は泣かなかった。


「ボンゴレ」


幼い頃、呼べた名前を今は呼べない。
本当に恐れ多いことをしていた。
でも、あの環境で真面に育てたのは、偏に彼と彼の母のお陰だと思う。


「ね、ランボ」

「はい」


呼ばれて俯きがちになっていた顔を上げれば、橙が目の前にあった。


「ボっン、ゴレ…」


息が、詰まる。
目の前の彼は綺麗な顔をしていると思う。
自分でわかっていないのか、自身を卑下することの多い彼だが、俺は彼を綺麗な人だと思っていた。
その綺麗な顔が、目の前にあった。
それこそ、睫毛を一本一本鮮明に捉えられる距離。


「なんで、泣くんだよ」


溜息が唇にかかって、顔が離れていく。
泣きたかったわけじゃない。
確かに彼の顔が目の前にあって、生きた心地はしなかったけど、それは彼が綺麗である所為で、泣くような理由は何一つなかった。


「ランボ、泣かないの。男だろぉ?」


彼の甘い声音は己が幼い頃から変わりはしない。
ただ子供に言い聞かすようなその口調が彼の優しい性格を表しているようだった。


「なんでっ…」


でた言葉は更に彼を困らす言葉。
人間って不思議だ。
絶対に口走っちゃいけないって分かってる言葉に限って口走っちゃうんだ。
それは、必ずと言っていいほどに、相手を傷つける。


「泣かないんですか! 」


あぁ止まらなかった。
言ってしまった。
彼の肩が跳ねた。
募るのは後悔ばかり。
こんなんだから、いつだって子供扱いされて、満足に守ることも出来ないんだ。
小さな頃から何一つ変わってないじゃないか。


「涙なんてさ、」


呟かれた声は、風に掻き消された。
表情は泣いているのに、涙は流れていない。
こんなに痛々しい表情をする彼を俺ははじめて見た。
他の守護者たちなら、この人にこんな表情をさせることなんてないんだろう。
涙を流さないボンゴレと、もう青年って言われてもいい年でだだ泣きする俺。
体ばかり大きく成長する自分の心は何一つ成長していなくて、それが余計に惨めで、俺は泣き続けた。
その間、彼は泣きもせず、ただ曇り空の広がる虚空を見つめて、俺が泣きやむのをただ待っていてくれた。
でも、俺の涙は枯れることをしらないのか、ただただ泣き続けた。


『泣ける時には泣いときな』


その台詞を俺に言ったのは雨の守護者だった。
その時は知り合いが抗争中に死んだのだ。
たまたまその場に居合わせた俺は守ることも出来なくて、泣くのを我慢していた。
任務帰りで一緒だった雨の守護者が俺の頭を撫でてそう言ったんだ。
あの時は泣くことに精一杯で、真意を図り損ねたけれど、もしかしたら、雨の守護者が本当にその台詞を言ってあげたかったのは、彼じゃないだろうか。
ふと、そんなことを思い出して、また涙が溢れた。


「ねぇランボ、涙が枯れたら」


聞きたくないと、ボンゴレの口を自分の口で塞いだ。
長年思い続けた想い人への初キスは、涙の味がした。




枯渇した涙の行方
written by SHIKI,2007/10/19




ランボさん難しいよ。
ラン27ていうか、27ラン…。
バイトが暇すぎてネタさえ思いつかねー。
ランボさんはヘタレというか、意気地がないだけ(尚悪し)
壊滅させた敵アジトの残骸の前で綱吉には切なくなってほしい。
変えたばかりの携帯に早く慣れようと打ち始めたのに、全然慣れない…ι




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