君欠乏症につき
※「面倒事を嫌う血に飢えた獣はかく語る」の続編です。単品でもお読みいただけますが、そちらを事前に読んでいただいた方が内容を理解出来るかと思います。
「ひっばりさーん」
いやにテンション高く馬鹿っぽい発音で並盛の秩序こと並中風紀委員長さんの名を紡ぎ、応接室の扉を開いた。
問答無用とばかりに飛んでくるのは、この部屋の主である雲雀さん愛用のトンファー。
それを軽々と避ければ、盛大に舌打ちされた。
「なに?」
「なんで、そんなに不機嫌なんですか?」
はぁと溜息を吐いて、やけに豪華なソファに座った。
この部屋は学校内のどの部屋よりも豪奢なものが沢山ある。
雲雀さん曰く、校長の善意だそうだが、絶対に違うと思う。
「君が原因なんだけど、わかってないわけ?」
オレに負けないほどの溜息付で言われたのは、想定内の台詞だった。
最近、ここに顔を出さなかったから、怒ってるんだ。
もしくは、(雲雀さんから見て)闘い(と書いて「面白そうなこと」と読む)に参加出来なくて柄にもなく拗ねてるか。
「だから、厄介事がくるって言ったじゃないですか」
とりあえず、前者で攻めてみる。
応接セットとして常備されているクッキーを囓った。
執務机と言っても支障がない大きく立派な机に向かっていた雲雀さんが書類を置いて立ち上がる。
「事情が変わったって言ったのは君。それに、ここに来なくなるとは聞いてないよ」
ギラリと黒曜石を嵌め込んだような瞳が光った。
欲求不満の4文字が脳裏を過ぎた。
「まだダメツナでいなきゃいけない時期なんで、我慢してください」
冷や汗が背筋を伝う。
ずっと目で追っていた筈なのに、気付けば、雲雀さんの黒が目の前あった。
「雲、雀さん」
「綱吉」
雲雀さんの綺麗な顔が目の前にあった。
吐息が、唇にかかる。
半分伏せられた目は、長い睫毛を強調して、落とされた影が雲雀さんの綺麗さに拍車をかける。
「ん…っ」
触れる唇に、目を閉じた。
軽く誘うように口を開けば、縦横無尽に掻き回される。
上がる息は、雲雀さんに飲み込まれていると思う。
「はっ」
塞がれた口を解放され、一気に酸素が身体に取り込まれる。
大きく肩で息をして、上がった息を調えようと努力するオレに対して、目の前の雲雀さんは息一つ弾ませることなく、フッと人の良いとは言い難い笑みを浮かべる。
ペロリと、雲雀さんが見せつけるように下唇を舐める。
「充電が切れる前にここにおいで」
雲雀さんの鋭さには脱帽する。
不機嫌だったのはこの所為だと、瞬時に理解した。
あはは。と、どこか乾いた響きのある笑いが込み上げる。
「何笑ってるの、君」
ふわりと笑われて、余計に笑ってしまった。
抱き締められて、雲雀さんの座ったソファの股の間に座らされた。
なんだかんだと、スキンシップを好むのはオレも雲雀さんも一緒だ。
「近いうちに、雲雀さんのところにもアイツが来ると思います」
「そう」
イタリアから来た爆弾魔に、山本武の自殺未遂騒動で、アイツの意のままに操られてる気がする。
次にアイツが欲しがるのが誰かはわからないが、並盛最恐と謳われる雲雀さんをアイツが見逃す筈がない。
正直、いくら闘い好きといえ、雲雀さんは巻き込みたくないというのが本音だ。
後ろから抱き締められたまま、頭に顎を乗せられる。
「綱吉、また難しい顔してる」
「見えてるんですか…?」
表情は後ろにいる雲雀さんに見えてない筈なのに。
「それくらい雰囲気でわかるよ。何年一緒だと思ってるの」
呆れたような声音は、酷く優しい。
雲雀さんを好きだと思う瞬間。
参ったな。
手放せそうにない。
「軽く二桁に届きそうですね」
クスリと笑って、回された腕にギュッとしがみついた。
応えるように少し強まった腕の力が愛しい。
「冗談じゃなくて、倒れる前にここにおいでよ、綱吉」
雲雀さんは本当にオレに敏感だ。
すぐに気付かれてしまう。
馬鹿なテンションで偽ってみても、雲雀さんはわかってたんだ。
アイツが来てから、雲雀さんに会う事もままならず、周りで起こる様々なことにストレスばかりが溜まる日々。
スキンシップも足りなかったし、オレの中で雲雀さんが不足してた。
声を聞きたい、姿を見たい、触れたい、欲望は募るばかりで、付き纏う自称右腕候補とダメツナの親友を語る人の目を盗んでやっと手に入った時間。
「雲雀さん、」
(いつも)ありがとう。
(巻き込んで)ゴメンなさい。
続けようと思った言葉は、どちらも言えはしなかった。
代わりに額に降ってきたキスに、目を閉じた。
今は充電が先だから。
好きだから声を聞きたくて
愛してるから姿を見たくて
愛しいから、
その身に触れたかったんだ。
君欠乏症につきwritten by SHIKI,2007/10/12
スレ綱になってない気がしますが、気にしない(気にしろ)
前作で1827要素があまりにもなかったので、1827っぽくしました。
互いに癒されてればいいと思います。
相変わらずセンスのないタイトルに嫌気がさします。