モノクロの世界に、朱、紅、緋。


陶磁器のような肌は白く、色素の薄い光を浴びると金にも見える茶色の髪は無造作に跳ねている。
瞳は夕陽の朱を真似たが如くの橙。
それを飾るのは白のスーツに紅の薔薇。
その姿を見た者は生きてはいられない。
数年前から、裏の世界で、語られ始めた噂は、単なる噂ではなく、真実だった。
彼は、かの有名なボンゴレの10代目なのだから。


「てわけで、死をお届けに参りましたよ」


おどけたように、ニコニコと話す口調こそ、まだ甘ちゃんの青年なのだが、その橙の瞳は決して獲物を逃がしはしないとばかりに鋭い。
裏切りには制裁を。


「助けなんて、来ないから」


白の青年は、銃を突き付ける。
突き付けられた男は、ずりずりと後ろに後退るが、すぐに壁に追いやられる。
青年は男にイタリア語など一切使わずに、母国語で話していた。
もちろん、日本語を知らない男は、青年が何を言っているのかなど分からない。
青年がニコリと極上の笑みを浮かべた。


「Chi rompe paga.」


青年が紡いだイタリア語に、男は固まった。
呆然と男が青年を見上げていた。


「さようなら」


青年の日本語と共に、銃声が鳴り響いた。
飛び散った血は、青年の白のスーツを汚す。


「あ〜あ、汚れちゃったや」


どうでも良さげに、呟いた。
青年の後ろからコツリと革靴の足音が鳴った。


「終わったんだ?」

「まぁな。ボスも終わったみたいだな」


ボスと呼ばれた白の青年とは対照的に、黒のスーツを着こなした身長の高い男は、口許だけで笑う。


「どこの国でも一緒だよね」

「あ?」

「因果応報ってやつ」


首を傾げ青年を見下ろした男に、銃を懐にしまいながら、青年は興味なさげに言う。


「イタリア語で言えば、Chi rompe paga.。悪事を働けば報いを受けるってこと」

「仕方ねーだろ」


あっけらかんと笑う男。
中学時代からこの男は変わらないな、と、青年は俯く。


「いつか、オレにも「ツナ」」


小さく呟かれた声は、男の声に遮られる。
青年が思わず見上げた視線の先には、真剣な表情をした男がいた。


「お前にそういう時がくるのは、俺が死んだ後だ。俺が死ぬまではぜってーお前には近付けさせたりしねぇから」


わしゃわしゃと、昔よくしたように男は自分よりも低い位置にある青年の頭を撫でる。


「それにな、俺だけじゃねーだろ?獄寺や雲雀もいる。お前は最後だ」


カツカツと男は先を歩き出す。
青年は男の背中を見つめた。
青年が少なからず憧れていた背中だ。
手が届かなくて、焦がれていた背中。
その背に疵を残せるような関係になったのはいつからだったろうか、と、青年は思う。


「山本っ」


青年は男の背中に叫ぶ。
普段呼ぶファーストネームではなく、昔呼んでいた男のファミリーネームを。


「死ぬ時は一緒だよ、」


続く筈の言葉は、青年と男の口の中に消えた。
白と黒の上着がはためく。
白の中、お前の罪だと言わんばかりに緋が主張をしていた。





モノクロの世界に、朱、紅、緋。
written by SHIKI,2007/09/29





黒もっさんとスレ綱。
未来設定は弄れて素敵(ォィ)
ツナは真っ白なスーツでも、真っ黒なスーツでも、どちらでもイイです。
絵に描く時は黒の方が誤魔化しがきくので黒にしちゃうことが多いですけど(言っちゃったよ、この人)
背中に疵を〜は、言わずもがなな感じです。
なんでか、山ツナは裏っぽくなる…。
タイトルの後半は全部「あか」と読みます。




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