不透明さを愛して


笑顔を見せない人だった。
見たことのある笑顔といえば、皮肉った笑みや嘲笑。
クフフと独特の声をもらして笑う骸さんも心から笑っているわけでなかったけれど、あの人とは違い、表情で笑みを作ることには長けていた。
それに比べて、オレはといえば、家庭教師様の様々な教育の結果、骸さん以上に笑みを浮かべることに長けた。
この世界で笑顔は時として最強の武器となる。


「貴女に似合うと思って買ってきたんだけど…あぁ貴女の美しさに宝石の方がくすんでしまったね」


歯の浮くような台詞にも慣れた。
紳士としての嗜みだと言えば聞こえはいいが、ホストみたいだと思う。
オレの日本人ゆえにある先入観のような差別的視点の所為だろう。
お陰様で、好きも愛してるも言い慣れたし、聞き慣れてしまった。
言わば、駆け引きなのだ。
商談と同じ。
愛を囁く時、オレは沢田綱吉個人ではなく、ボンゴレ10代目として言葉を紡いでいた。


「で、ホントは愛してないんだって刺されてりゃ世話ねぇな」


家庭教師の痛い言葉にオレは苦く笑った。
オレの笑みにリボーンが眉を顰める。
そういえば、ここ最近ランボがめっきり姿を見せなくなった。
もともとボンゴレの一員というわけじゃないランボだから、向こうで何かあったのかなと気にしてなかったけれど、よくよく思い出せば、ランボが来なくなる前日にランボはオレの笑顔を見て泣き出したような気がする。
リボーンにしても、ランボにしても、なんで今更。
オレの笑顔って変なのか…?


「ねぇリボーン」

「なんだよ」


オレは白いベッドに横たわってて、リボーンはその横に置いてある付添者用の椅子に座っている。
いつもは銃を扱う手が、器用にリンゴを剥いていた。
こいつは本当になんでも出来ちゃうんだから、嫌な奴だ。


「恭弥さん呼んでくれないかな…」


出した名前に、シャリッと剥いていたリンゴの皮が、切れた。
珍しく動揺してるリボーンは、自分に腹が立ったのか、乱暴にカシャンとナイフを置いた。


「雲雀を呼んでどうすんだ」

「そろそろ、けじめ、つけようかなって」


そう言えば、リボーンは携帯を取り出して、どこかにかけはじめた。
ボンゴレの血が、リボーンが骸さんにかけているのだと知らせる。
骸さんも随分丸くなったものだと思う。


「雲雀を連れて来い」


それだけ言って電話をきったリボーン。
切られた電話口の向こうで骸さんはリボーンの横暴な態度に苦笑してるに違いない。
もしかしたら、オレはこれから恭弥さんを連れて来るだろう骸さんに開口一番に同情と憐れみの言葉をいただくことになるかもしれない。


「相変わらず、横暴な態度でしたね、アルコバレーノ」


10分も経たないうちに、骸さんは病室の扉を開けた。
ノックをしないのは、嫌がらせの範囲内だろう。
チラリとオレを一瞥する。


「君も、相変わらずみたいですね」


骸さんが笑う。
その笑みは嘲笑だった。


「恭弥くんを連れて来いとのことでしたので、連れて来ましたよ」


ドアの外に向かって、骸さんが恭弥さんを呼んだ。
コツリと、革靴の靴音がした。


「ちょっと六道、説明くらいしてくれない?」


不機嫌を絵に描いたように、恭弥さんは不機嫌だった。
それに反比例するように、突然呼び出されたにも関わらず骸さんは上機嫌だ。


「すみません、恭弥さん」


とりあえず、オレが言い出したのだと、素直に手を上げた。
リボーンがベッドを挟んで反対側に移り、頭に乗ったままの帽子を深く被る。
恭弥さんと同色の、真っ黒な目が隠れた。
グルリ、リボーンの帽子の上に乗ったレオンが心配そうに目を回す。


「どうしても、聞いて欲しいことがあるんです」


まだ治ってはいない刺し傷が痛む身体を無理矢理正して、恭弥さんを見上げた。


「なに?」


リボーンが座っていた椅子に恭弥さんが座った。


「返事をさせてください」


ギシリ、椅子が軋んだ。
その音を無視して、オレは笑んだ。


「オレは…恭弥さんを好きになることはできないと思います。でも、」


眉を寄せて、でもオレから目を逸らさない恭弥さんと視線を絡ませる。
綺麗な人だと、中学の頃から数えて何回思っただろうか。
短く切られた前髪は、あの頃髪の隙間からしか見せてくれなかった瞳を惜しげもなく見せてくれる。


「愛してるんです」


ボタボタと涙が落ちた。
ぼやける視界の中で、骸さんが溜息を吐いて、病室から出て行った。
リボーンはまだそこにいる。
いるけれど、気配を完全に消して、いないことにしてくれていた。


「矛盾してるよ」

「わかってます。好きになることはできないけれど、愛することはできるんです。オレは、恭弥さんに出会って、はじめてそんな想いを知りました」


好きにはなれない。
だって、怖いから。
怖いことは大嫌い。
それは昔から変わらない。
マフィアのボスという、恐怖の象徴のような立場となった今でさえ、そう思う。
ただ、怖いから嫌いだけど、恭弥さんを愛しく思う。
愛していると思う、感じる。


「そうだね」


恭弥さんが笑った。
皮肉った笑みや嘲笑ではなく、もちろん取り繕った笑みでもない。
ただ、笑った。


「僕も弱い君は嫌いだし、それでも、君を愛してるんだから、矛盾してるね」


フフと笑って、オレの頬を流れる涙をその繊細な指で拭ってくれた。
それから、目許にキスを貰って、と、イチャイチャしていた。


「てめーら、ウザいぞ」


桃色の幸せな雰囲気にいい加減嫌気がさしてきたリボーンが止めるまで、オレたちは遠回りしすぎた分、イチャついていた。




嫌いだよ。

好きじゃないです。

でも、愛してる。





不透明さを愛して
written by SHIKI,2007/09/25
お題⇒アコオール≫オーエス





長くなりすぎた。
嫌いだから、愛してるんだということが書きたかったのに、しょっぱな笑顔の話でした……。
18様にするか、69にするか悩んで、69だったら洒落にならんくらいに、憎いから愛してるが当てはまってしまったので、とりあえず18様に。
テーマは嫌いだから愛してるですから。
憎いからじゃないんです。
別にリボランてわけじゃないんですが、リボ様はランボの駆け込み寺と化してたらいいなぁとか…。
なんだかんだ言いながらも、リボ様は面倒見がイイと思うんで。




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