暖かな希望


ふと、彼の執務室に足を向けた。
ノックもせずに、踏み入れる。


「ノックぐらいしてよ」


思わぬ声に足を止めた。
俯いた視線をあげて見据えた先に、綱吉くんはいた。


「久しぶり、骸」


声が出なかった。
まだ綱吉くんは安静が必要なはずで、入院しているはずだ。
なのに、平気な顔をして、彼は僕の目の前にいた。


「もう、いいんですか?」

「ん〜まぁね」


苦笑ともとれる笑顔は、数週間見なかっただけなのに、なんだか大人びている。
いや、大人びているというのもおかしな話である。
彼は既に20歳を超えた世間一般で言うところの大人なのだから。
ただ、外見年齢が10代の頃からほとんど変わらないだけで。


「むくろ、ただいま」

「おかえりなさい」


ぽすっと僕の腕の中に綱吉くんが収まった。
温かい。
彼が生きているという証。


「ね、骸」

「はい」

「約束守っただろ?」


約束?
僕の周りには疑問符でも浮かんでいたのだろうか。
綱吉くんが少しムッとした顔で僕を見上げた。


「お前をおいて逝かないって、言っただろ?」

「そうですね」


聞いた瞬間、憑物でも落ちたように心が軽くなった。
無意識に恐れすぎていたんだろう、綱吉くんがあの人のように居なくなってしまうことを。
チュッとわざとリップ音を立てて、綱吉くんの頬に口付けた。


「厚情のキス?」


クスクス笑っている綱吉くん。
悪どいことを考えていそうだと言われそうな笑みを口許に浮かべて、僕は笑う。


「狂喜染みた愛でよければ」


そう言って、綱吉くんの唇に愛情の口付けを落とした。




そう

君は

僕らの、

僕の


暖かな希望
Ending…






もう何も言うまい。




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