また逢いたいから忘れない




「おはよう、骸」


黒を基調とした洋物の服を着た青年。
僕よりは年上である彼はにこやかに笑って流暢な日本語を喋った。
容姿は明らかに日本人ではない髪の色と目の色をし、少し線の細い体格をしている。


「もうこんにちはの時間ですよ」

「細かいことは気にしないんだ、私は」


苦笑気味に笑った笑顔は幼い。


「細かいことを気にしない人がこんな島国に逃げますか?」

「逃げますねー」


ケラケラと笑う彼は血の匂いに染まっているとは到底思えない。
彼の普段は柔和な表情の所為もあるだろうが。


「結局はぐらかされてばかりなんで、そろそろ答えませんか?」

「骸はしつこいね」


謎だらけのこの人物を僕が隠れ家として使っている家に住まわせてから、どれくらい経ったのか。
彼の謎は一つでもなくなることすらない。


「遠い遠い海の向こうにね、大切な人を置いてきてしまった」


どこか遠い目をする彼。
彼には見えているのだろうか、その遠い遠い海の向こうが。


「お前は私から血の匂いがすると言ってたよね?」

「えぇ」


はじめて彼に出会った時、彼からは僕と同じ血の匂いがしていた。


「たくさんの仲間を失ったよ。それ以上にたくさんの人を殺した」


淡々と紡がれる言葉は日本語だった。
容姿に似合わない流暢な日本語はその不自然さからか、なんだか痛々しい。


「私は裏の世界で大きな組織を作った。7人の親友たちに協力してもらってね」


懐かしんでいるのか、少し表情が和らぐ。
本当に大切だったのだろう、その7人の親友が。


「私はね、怖かったんだ」

「なにがですか?」


苦笑に似た笑いが漏れる。


「人を殺しておいて、大事な人たちが死ぬのは見たくはなかったんだ。だから、逃げ出した」


どこか遠くを見つめていた彼が僕に視線を向ける。
左右異なる僕の目と日本人にはない色をした彼の目は、しっかりと視線を絡ませていた。


「卑怯なんだよ、私は」

「そんなことはないでしょう」

「え?」


僕の台詞に、彼が驚いた顔をする。


「人は誰しも逃げ出したいと思うもの。それをできないから、その与えられたものに甘んじる。あなたは逃げ出しただけ、凄いと思いますよ?まぁこれは僕の戯言ですが」


ニコリと笑えば、彼は眉間に皺を寄せていた。


「どうしたんですか?」

「本当に見た目と精神年齢の合わないやつだな、お前は」


仕方ないでしょう。
六道を巡った僕に子供らしくいろというのはムリというもの。


「骸、また会えるかな?」

「毎日会ってるじゃないですか」

「そうじゃなくて、もし転生というものがあるのなら」


どこかゆったりとした動きをしている気がする。


「会えますよ。むしろ、僕が探しましょう、あなたを」

「有り難いと言っていいのか、それは」

「嬉しいでしょう?」


ふふっと笑って、首肯する。
その顔色は明らかに悪い。


「Arrivederci」

「え…?」


ユラリと傾く彼の身体。
咄嗟に支えようとして、ヌルリとした感触に阻まれた。
彼の背を支えようした僕の手は真っ赤に染まっていた。
彼の血。


「僕をおいて逝くんですか?ジョット」


彼が再び瞼をあげることも、僕に微笑むこともなく、ただ彼から流れる赤い液体が彼の体温を奪っていくだけだった。
彼が最後に残した言葉。
アッリヴェデルチ。
………さようなら、また逢いましょう。




また逢いたいから忘れない





初代の一人称は私。
7人の親友は言わずもがな呪われた彼ら。




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