手を握るという行為について考えた。
ただ手を握るだけ。
それだけなのだ。
そうであるのに、この身体は恐怖に震える。
これが歓喜の震えであったなら、どんなに良かっただろうと、静雄は他人にはサングラス越しにしか見えない目を伏せた。
人に触れるのが怖くなったのはいつだったかなんて、もう覚えてはいない。
ただ、この力がある限り、自分が他人と共に生活するなんてことは出来ないのだと理解していた。
そう、今まで幾多となく、大切な弟まで傷付けそうになってきたのだ。
幽の悪運が強いのか、不幸中の幸いというやつか、大怪我という大怪我は負ったことはない。
幽が怪我をする前に、静雄自身の身体が壊れていたというのもある。
しかし、今の静雄の身体はちょっとやそっとじゃ壊れない。
だからこそ、怖いのだ。
初めて愛しいと、守りたいと、そう思った竜ヶ峰帝人という少年を、いつか、自身の力が傷付けてしまいそうで。
それが静雄は堪らなく怖かった。


「静雄さん」


そっと、気遣うように自分に触れる手に静雄はドキリと肩を揺らす。
それに気付いてか、手が遠退くのを静雄は何処か他人事のように見ていた。


「竜ヶ峰っ」


名前を呼ぶことさえ出来ない自分にいつしかこの少年が愛想を尽かしてしまうんじゃないかと気が気じゃない。


「大丈夫ですよ」


自分の不甲斐なさに伏せていた顔を上げれば、帝人がへにゃりと笑ってみせた。
その笑顔に静雄の中の庇護欲が掻き立てられる。


「僕、そんな簡単に壊れませんから。人間って、意外と丈夫なんですよ」


ふわふわと笑う帝人に、自分の内心を悟られていたのかと、何処か肩の荷が下りるような、そんな感じがして、肩に入っていた力が抜ける。


「痛かったら言えよ」

「はい」

「絶対だぞ」

「わかってますよ」


何度も念を押して、静雄は漸く帝人の手を引いた。
思った以上に力が入っていたのか、帝人の身体がふらつき、ポスリと静雄の腕の中に収まる。
傷付けないように、慎重に、優しい手つきで腕を回す静雄に帝人は少しばかりの勇気を出して、自ら静雄の背に手を回す。
身長差の所為で、背中ではなく腰に抱き着くような形となっていたが。


「痛くね「痛くないし、苦しくもないです」


静雄の言葉を遮った帝人は、腰に回した手に更に力を篭めて、ぎゅーっと抱き着く。
静雄の胸板というより、腹筋に顔を埋める。


「大好きです」


くぐもった声に、静雄は少し頬の筋肉が緩まるのを感じていた。






いだのは手ではなく愛
(愛してるじゃ足りない)




帝人、

え、あの、はい

愛してる

し、ずお…さん









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