それはどう見ても、友達同士とその保護者一名という構図だった。
身長云々ではない。
雰囲気が逸脱していた。
「皇人が俺より注目の的になるなんて、紀田正臣一生の不覚」
「わけがわからないな」
「皇ちゃんが紀田くんに負けるわけないよ」
池袋の通行人達の視線を独り占めしているのは、皇人だった。
明らかな奇異の視線を含め、注目されてはいた。
理由は単純明快である。
正臣と話す帝人と手を繋ぎ、皇人が二人をニコニコと見ていたからだ。
それだけであったなら、保護者で終わらすことも出来たのだが、帝人が話を皇人に振る度に帝人へと顔を近付け笑う。
そんな、今時バカップルでもしないようなことを繰り返していれば、注目も集まるであろう。
「暗くなってきたし、あまり長居も出来ないね」
「制服じゃないけど補導されちゃマズイもんな」
「補導に制服と私服の差ってあるのか?」
「さぁ?」
くだらない会話を交わし、横断歩道に出れば、何処からともなく、猛獣の嘶きにも似た轟音が響く。
帝人は疑問符を浮かべ、正臣はニィッと笑う。
三人の目の前を闇に溶ける程の黒が走り抜けた。
目の前の出来事を理解出来ずに呆然と立ち竦む帝人の肩を正臣が軽く叩いた。
「今のが都市伝説の黒バイ」
「あれが…」
「歓迎されてんのかもな、池袋に」
歓迎もするだろう。
皇人は内心で正臣の言葉に毒づいた。
兄は知っていた。
自分の片割れがどういう存在か、を。
「都市伝説も見たし、帰ろうか」
「だな」
皇帝、都市伝説を垣間見る。(夜の帳は降り、闇の時間がやってくる)
「みかは正臣くんとこ泊まるんでしょ?正臣くん、みかを頼むよ」
「皇人はいちいち心配性過ぎるっつぅの。帝人ーっ帰んぞー」
「待ってよ、紀田くん。皇ちゃん、また明日ね」
「また明日。おやすみ、みかに正臣くん」
(さぁ非日常の始まりだ)