池袋駅東武東上線中央改札。
帝人はそこに立っていた。
皇人を誘ったものの、少し用があるのだと断られたが、改札までは送って貰えたので、帝人は迷うことなく、待ち合わせ場所に立つことが出来た。
長い間会っていない幼なじみとの再会を楽しみに待つ一方、考えるのは昨晩日課状態となっているチャットで聞いた話だった。
(えっと、黒バイクだっけ)
一番印象に残ったのは、それだった。
都市伝説、黒バイク。
帝人は憧れの非日常に近付いた気がして、興奮に似た何かを覚える。
(ダラーズに、エンペラーだっけ)
ダラーズは色のないカラーギャングだとか、色々教えてもらいはしたが、イマイチ実感が湧かないのも事実である。
というのも、まさか実体としてこうも話題になるものになっているとは、流石に想像していなかったというのが、本音だ。
そして、もう一つ上がったものがあった。
それがエンペラーだ。
カラーギャングなのか、何であるのか謎だらけなのだという。
ただ、数年前から名前が上がることが何度かあり、巻き込まれると死人が出るらしい。
一人の人間を指すのか、カラーギャングのようなチームを指すのかさえもわからない。
「みっかっどっ!」
考え込んでいた帝人に実に浮かれた声がかけられる。
声をかけてきた人物を見遣り、帝人は戸惑ったように目を見開いた。
「紀、田くん?」
「おいおい疑問形かよ。仕方ないな、選択肢を与えようー!いち、紀田正臣!に、紀田正臣!さん、紀田正臣!さぁどれ!?」
ウザいくらいのテンションで話す金茶髪の少年に若干ひきながらも、帝人はその他人より大きめの目を輝かした。
「その寒さ、紀田くんだぁ」
感動する点が間違っているような気がするものの、確かに帝人は目を輝かせ、その視線を幼なじみである正臣に向けていた。
その視線に、少し照れたように笑う正臣の姿はどこか初々しさを感じる。
「行くか」
「うん」
ニコニコと人懐っこそうな笑顔を浮かべた帝人が、歩き出した正臣を追った。
「関わっちゃいけない人?」
東口と西口の違いや、正臣のネタを挟みつつ、話題に上がった言葉に帝人は疑問符を浮かべながら、好奇心を隠せなかった。
食いついたなと、正臣が表情を緩める。
「そ。まずはこの俺!」
「√3点」
「それは平方根を知らない小学生じゃ理解出来ないってことか!なぁ!つうか、早速俺を敵に回しやがったな、このっ」
スキンシップが多い。
それは幼い頃と変わらず、懐かしささえ感じる戯れに、帝人は自然と笑顔を浮かべていた。
「まぁ真面目な話。平和島静雄と折原臨也とダラーズには関わんなよ。あと、」
正臣の声が途切れる。
何かを躊躇うように、言い淀む。
一つ深呼吸して、正臣は真っ直ぐに帝人を見据えた。
「俺な」
真面目な顔を一転、ニィッと笑った正臣に帝人はわざとらしく溜息を零した。
紀田くんの悪いとこはね、と、何やら不平不満を語り出した帝人に正臣は息を吐く。
本当に言いたかったことは胸のうちに秘めた。
「みか、正臣くん」
どこかで見ていたんじゃないかというタイミングで声をかけてきた皇人に、正臣は息を飲む。
帝人に気付かれはしなかったが、皇人はその様子をバッチリ見ていた。
帝人に見えないよう、口が三日月に笑って、目が細められたのを、正臣はどこか他人事のように見ていた。
皇帝、幼なじみと再会する。(触らぬ神に祟りなし。イイ判断だよ、正臣くん)
(帝人、頼むから首を突っ込むな。ダラーズにもエンペラーにも折原臨也にも。そう、言えたらいいのに、この口は言えない。帝人は、守りたい。帝人は、失いたくない。帝人だけは、守り通したいんだ。なのに、忠告さえ出来ない俺は、本当に帝人を守れるのかよ)