空は青さを無くし、曇天が広がっていて、先程まで冷たい雨を降らしていた。
雨は上がったものの、まだ空は暗く、いつ降り出すかわからないといった雰囲気だ。
気温が下がっているのを肌で感じ、皇人は長袖シャツに春用のジャケットを着たその身を縮ませる。
もうすぐ4月だと、コートなしで出掛けたのはある種の自殺行為だったと、自宅を出る前の自分を呪い殺したくなっていた。
よくこの季節に薄着で出掛け風邪をひいていた弟を思い出し、少し機嫌が良くなった。
自分でも単純なものだと呆れ返る。
皇人の決断には全てにおいて、脳内に帝人がいる。
それは、自他ともに認める皇人の特徴らしい特徴だった。


「皇人?」


聞き慣れた声に振り向けば、金茶に近い茶髪が鮮やかな幼なじみの姿を視界に入れ、皇人は目を細めた。
第一段階として、彼のファッションをチェックするようになったのはいつからだっただろうかと、頭の隅で考える。
チェックしたかった物がなさそうだと感じ、漸く笑みを浮かべた。


「やぁ正臣くん」

「その呼び方気持ち悪いぜ」

「んじゃあ、紀田くんって呼んで欲しいのかな?」


ニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべていると、帝人との血縁を認めざるを得ないと言われる笑顔をフルに使う。
勿論、紀田くん、と、帝人の声真似をしていたのは、完全なる正臣への嫌がらせである。
自称帝人の親友を語る男を、ブラコンを公言する皇人が良く思っているハズなどない。
彼は彼なりに折り合いを付けていたのだが、池袋という街に帝人を呼び寄せた正臣に対する怒りは尋常ではないのが、心情であったりする。


「はいはい。正臣くんでイイから、紀田くん呼びは止してくれ」

「帝人だけの呼び方にしておきたい?それとも、」


イロイロ思い出しちゃうから?
そう続けようとして、皇人は口を閉ざす。


「皇人、あのさ」

「みかには言わないであげるよ、勿論ね」


その皇人の言葉に明らかな安堵を表情に出した正臣に、少しばかりの意地悪を皇人は思い付く。
ニタリと笑いたいのを我慢し、笑みを称える。


「そのかわりと言っては何だけどね、みかを巻き込むのは許さないよ。何であろうとも、ね」


ニコリと笑った皇人に、正臣は悪寒が走るのを感じた。
心なしか、顔色も悪くなる。


「…なんてね」


皇人は悪戯が成功した子供のように笑った。
それに対して、正臣は怯えにも似た表情になる。
幼なじみに向けるには些か不可思議な表情に、皇人は疑問を向けることもなく、ふわりと笑う。


「正臣くん、彼女を大切にね」


したり顔で笑って、正臣に軽く手を振ると、背を向けて歩き出す。
背を向けた瞬間、皇人の顔から笑みは消え、無表情となっていたことなど、正臣は知らない。


「バイバ〜イ、将軍様」


皇人の呟きは雨を纏う冷たい空気に溶けて消えた。
バサリと音を立て、手に持っていた黒の傘を開く。
黒の傘にポツリポツリと音を立てて、雨が降り出す。
静かだった街がザーッザーッと雨の音に支配された。


「さてと、ハンズに向かいますか」


当初の目的の為、皇人は歩く。
帝人との生活に必要な雑貨を揃える為に。
その口元には実に楽しそうな笑みが浮かべられていた。



皇帝、元将軍様と見える。
(何があろうと、みかだけは守るよ、絶対に)




(みかは水色とか青系で揃えて、俺のは黒…いや、うん緑にしとこうかな。黒ってなんか、あの人っぽいし。黄色系はヤだし、うんうん、緑だな)

「あれ〜?皇人くんじゃん」

「絵理華さん、こんにちは」

「俺もいるっすよ」

「ウォーカーさん。あ、京平さんも、こんちは。って、三郎さんはどうしたんですか?」

「渡草はワゴンで留守番」










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