暑い。
僕の部屋にエアコンなんてものは存在しない。
唯一あった扇風機は昨日有り得ない音をさせて起動するのを止めた。
パソコンを使うのにこんなに悪い環境があるだろうか。
最悪だと内心で呟く。
あと数日と思っていたけれど、早めにネットカフェに逃げ込んだ方が良さそうだ。
必要な荷物は既に纏めた。
「ちょっと早いけど仕方ない」
青葉君には滞在先を決めてから連絡しよう。
そう頭の片隅で考えながら、荷物を担いで部屋のドアを開けた。
「え?」
「久しぶりだね、帝人くん」
見覚えのある黒のコートに貼り付けたような笑顔、聞き馴染んでいた背筋を這うような声。
行方を眩ませていた折原さんがそこにいた。
「な、で…」
なんでと言いたかった言葉はつっかえて音にならなかった。
「家出?一人暮らしで家出っていうのも変かな?どこに行くの?宛てがないなら」
言葉を挟む隙間などなくて、ただただ呆然と折原さんを見上げる。
折原さんの口角がニィと三日月のように歪んだ。
「俺の所で匿ってあげるよ」
甘い林檎は毒林檎だとわかっていた。
でも、それを咀嚼することが義務であるかのように感じた。
返事を返す余裕もなく、僕は折原さんの差し出した手を掴んでいた。
こんがらがって、僕は、ゆっくり壊されてゆく
(手に入れたのは絶望?希望?)
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クーラーの効いた部屋でパソコンを弄りながら考える。
誰かに連絡しなくちゃ行けない筈なのに。
誰かって誰だろう。