季節が巡ろうとしているのか、日が沈む時間が遅くなり始めたのはつい最近のことだ。
日中の暑さに辟易していたが、夕方を過ぎれば肌寒さを感じるのはまだ夏に成りきっていない証拠だろう。
「静雄さん」
振り返らずともわかる声をかけてきた人物を脳裏に描き、静雄は表情を緩める。
比例して柔らかくなった雰囲気に気付いたのか、トスンと小さな衝撃を腰に受け、次いで口許を緩ませる。
腰から腹辺りに回る腕は見覚えのある水色の制服に包まれていた。
「今帰りか?」
「はい」
肩越しに振り返れば満面に笑顔を浮かべた帝人に、静雄も柔らかな雰囲気を崩すことなく微笑う。
口に咥えたままだった煙草を手に移しそのままアスファルトへと落とすと、右足で踏み潰した。
「飯は?」
硝子細工でも扱うような酷く優しい仕草で、自分に抱き着く腕を解いた静雄は帝人を正面から視界に入れる。
その手は解いた腕をやんわりと握ったままだ。
「まだです。帰りにスーパーに寄って帰ろうかと」
「ちょうどいいな」
「はい?」
きょとんとして静雄を見上げる帝人の頭を軽く掻き混ぜるように撫でる。
「驕るからサイモンとこ行こうぜ」
「驕っ、それは悪いですよ!」
既に歩き出そうとしている静雄の腕を縋るように掴んだ帝人は、必死に静雄の顔を見上げる。
「んなの、気にすんな」
「気にします。あ…」
「なんだ?」
何かを思いついたように帝人が静雄から手を離し、そんな帝人の顔を覗き込むように静雄が少し屈もうとした。
それよりも早く帝人の顔が上がる。
「僕の家でご飯にしませんか?」
「竜ヶ峰の家で?」
「はい。あまりいいものは作れませんが、静雄さんさえ良ければ」
まさかの申し出は静雄にとって願ったり叶ったりの提案だった。
「良ければというよりも、悪いわけがねぇ」
静雄はそう言うやいなや、自分より小さな帝人の手に自分の指を絡め、歩き出す。
その方向は帝人の家の方面であり、帝人の家から一番近いスーパーに向かっていた。
「静雄さん静雄さん」
「あ?」
ひょこひょこと自分よりも歩幅の大きな静雄に合わせて早歩きでついて来ようとする帝人に、静雄は歩調を緩める。
すると、必然的に二人の歩調が合い、随分と高さの違う肩が横に並ぶ。
「僕頑張って作りますね」
キラキラとした笑顔を浮かべた帝人に静雄は目眩を感じていた。
些細なことが全て幸せ
(歩調が合って視線が絡んで、また笑顔)
(デザートは竜ヶ峰がいい。なんて、ベタ過ぎて洒落にもなりゃしない)
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タイトルを打つ時に些細なことが全てのあとに、臨也と予測変換に出て固まった記憶があります。(2012年某日)