臨也さんが居なくなった。
とうとう静雄さんが我慢出来なくなって殺してしまっただとかそういうものではなくて、唐突に忽然と姿を見せなくなったのだ。
それはあの、ニュースにまで流れた時とは違い、完璧なまでに消え去ってしまった。
矢霧くんによると、お姉さんも知らないらしい。
セルティさんによると、新羅さんも知らないらしい。
静雄さんによると、臨也さんの妹さんも知らないらしい。
僕も、何も知らなかった。


「帝人先輩」


この後輩が何かしたのかと問うても、後輩も何も知らなかった。
忽然と姿を消した彼の消息は一向に掴めず終い。
そうこうしているうちに、僕は高校卒業を目前に控えていた。
都内の大学への進学が既に決まっていた僕にはセンター試験に向けて焦る必要もなく、真面目にやっていて良かったなんて思いながら、平和過ぎる非日常など消え失せてしまったかのような日常を送っている。


「もう、卒業か」


いやがおうでも、入学した頃のことを思い出す。
キラキラと輝いて見えた池袋は、今はもう地元とさして変わらない。


「臨也さん」


たまに名前を呼びたくなる。
その話を青葉くんにしたら、苦虫を噛んだような顔をしていた。
勿論、苦虫を噛んだ表情を見たことがあるかと聞かれれば、NOである。


「臨也さ〜ん…」


名前を呼んでみれば、簡単に思い出せるあの人の人を揶揄するような笑みと、その何処か冷え冷えとしているのに甘い声音。


「臨也さん」


涙が零れそうだなんて、勘違いだ。
これは埃が目に入ったからに違いない。


「帝人くん、泣いてるの?」


聞こえた声は酷く甘い響きを持っていて、あぁもう僕は本当末期だ。


「シズちゃんにイジメられた?それとも黒沼青葉?ねぇ帝人くん?」


聞こえる筈のない声が、ただただ僕を心配するように、言葉を紡いでいく。
それは幻聴でしかないのに。
僕はどれ程、臨也さんを欲しているのだろうか。
こんな、幻聴を作ってしまうくらい。


「帝人くん?俺をちゃんと見てよ」

「い、ざやさん」

「なぁに?帝人くん」


首を固定される。
触れているのは何?
これは、手?
誰のもの?
目の前にいるのは、誰?
僕を呼んで、応えてくれたのは、誰?


「ただいま、帝人くん。迎えにきたよ。もう放さないから」


あぁ臨也さんだ。
自分勝手で、自己中心的で、僕の都合なんてお構いなしの。
なのに、僕は知らないんだ。
この差し出された手を握る以外の方法など、知りはしない。








とり、遺されるくらいなら
(おかえりなさい、臨也さん)
title by:[哀愁シリアス](c)ひよこ屋




もう放しはしないだなんて、きっと嘘。でも、その嘘も本当にしてあげます。僕が放れなければ、本当になるでしょう?








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